実写/バンブルビー | ナノ
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I Need You!

Hello,new friend.

傷ついていた駅の構内で、日を追うごとにパイロンが少しずつ、外れていく。都市の再生はバイタリティと比例するのかもしれない。たとえエイリアンが侵略してこようと、みんな忙しい。仕事を休めば収入が減る。仕事を続行させる人を運ぶ交通機関が要る。動き続ける事が大切なのだと、エイリアンが開けた地面の穴が、いまだに緩く水を漏らしながら、無言で訴えている。
あの、トランスフォーマーのカマロが姿を消して、一週間が過ぎようとしていた。
玄関を開けるたびに、太陽とハミングをするようなあのビタミンカラーがないと、物足りなさを感じる。リース期間は結局、本体不在のまま、明日終わる。
あのカマロに一言謝りたかった。それから、謝意も伝えたかった。その思いが日を追うごとに胸の中で風船のように膨らんでいき、胃のあたりを圧迫しているような感覚。
今は亡き蠍のロボットが開けた大穴には、キープアウトの文字がしつこく連なったテープが乱雑に巻き付けられていた。ここでへたり込んだとき、バンブルビーは靴を返してくれた。トランスフォーマーと目が合った。瞳孔同士がぶつかった感覚があったのだ。その瞬間、バンブルビーがどこかとてつもなく遠いところからきた全く知らない世界の生命体なのだとはっきり思い知らされた。
電車が作る風で、無神経に揺れる安っぽいキープアウトの文字達が焦燥感を煽っていき、胸のあたりにつかえる靄をさらに深く視界の悪い何かに変えている気がして、ただその場に立ち尽くし、頭を抱えるしかなかった。
とことん考え、そうこうしているうちに退社時刻になった。仕事は半分以上残ってしまい、私情を挟み過ぎているなと反省した。ただ、考えて考えて、一つの結論に思い至った。エイリアンは、少なくともバンブルビーと呼ばれたあのロボットは、世間が騒いでいるような人類の敵では決してないという事がはっきりと分かった。
命を助けてくれた。それだけで充分理由になる。
何も迷う必要なんてなかったのだ。最初から。
退勤したその足でATMへと駆け込み、下ろしたお金を封筒に突っ込み、走り出した。足が勝手に。


Side B


ユマの家に行かなくなって、6日。リース期間はあと1日、とサムは言っていたけど、もう日はとっぷり暮れ、彼女には会えない気がしていた。すっかり弱気になってしまった。今まで誰がなんと言おうと、誰がどんな振る舞いをしようと、自分の事象には関係ないと思っていたから、自分の信じていた道に進む事ができた。しかし、今はどうだ。ユマが関わると、自分の行動のほとんどに自信がない。なんだか、今の自分は生きてきた史上最高に好きじゃない。
もう会えないんだから、考えていても仕方ないのに。
彼女にまた拒絶されたら、自分の何かが、自分のどこか大切なワイヤーが、ぷつりと切れてしまいそうな気がした。
そうなっても別にいいやと思う自分と、ドライブをした時の柔らかな笑顔があと一回でいいから見たいと思う自分と、そんなのがガチャガチャしていた。

「そろそろ素直になりなよ、ビー」

サムが外に出てきた。
ガレージの隣で縮こまる俺を見兼ねたのか、それとも揶揄う為か。

「いいの?行かなくて」
「…………」
「……まあ、勉強になったと思えば。世の人間みんなが、僕みたいに器が大きいわけじゃないから」

返す言葉を探すのも億劫で、ただただ排気を漏らす。

「やっぱり君は軍に戻っ……」

サムが途中で会話を切った。切ったというより、何かに気を取られて言葉がストップした感じだった。思わず俯いていた顔をあげ、サムを見下ろした。ちょいちょい、と手をこまねき、目を大きく開いたまま、こちらを見上げている。

「ビービービービービー、彼女だ、彼女がきた!」

思わず慌てて、ガレージの中に静かに入った。彼女が来たって!?

「……ってなんで!おい!なんで隠れるんだよ!?」

サムは声を殺して、慌ててこちらに問いかける。俺はサムにケツを見せたまま、とりあえずガレージに入った。どんな顔をしたらいいのか全くわからない。嗚呼くそ、格好悪いのなんて自分が一番よく分かってる!それなのに、やあと陽気なサムの声がガレージの外で聞こえて、聴覚センサーを最大限に立てている自分にさらに辟易した。聞きたいけど、聞きたくない彼女の声。嫌だ、でも聞きたい。彼女の声。くそったれ。夜分にごめんなさい、柔らかなそんな声がガレージ越しに聞こえて、身体中をめぐる体液が逆流しそうな気がした。

「あの」
「鍵を返しに来たの?」

なんだよ!なんでそんなこと聞くの!?
バカなのか!?なんでそんなこと、

「お金を持って来ました」
「え?あ、リース代なら要らな」
「5000ドル、キャッシュで」

え?

「───あのカマロ、私にください」

凛とした声がガレージ越しに伝わるが、周りの喧騒も、虫たちの声も、公道を走る車の音も、何もかも、何もかも、音をなさない。

「友達になります、彼と」

オプティックが乾く気がして、何度か瞬きをした。その音が、やけにうるさく感じる。視線だけがさまよった。どこを見ていいのかわからない。無性に顔が見たくなった。

「彼の事を思うと、自分の人生が、何か良くなるような、そんな気持ちになるんです」

勝手に足が動いていた。ガレージから飛び出ると、彼女はひゃあっと一度情けない声を上げた。構わない。全然。少しずつ慣れてくれたらいい。それでいい、今は。

「びっ、びっくりしただけ、あの、怖いとか、そんなんじゃな、ないから!」

両手を上げてそう懸命に抗議した彼女を出来るだけ優しく、慎重に掴み上げた。こんなに嬉しいのは、何年振りだろう。サムが嬉しそうな、困ったような、複雑な面持ちでこちらを見上げている。彼の傍らに、ミカエラが近づいてくる。

「どうしたの」
「お買い上げだってさ」
「え?……だけど、あなたはいいの?サム」

サムは一呼吸、間をおいた。

「……さぁ。だけど地球にはたくさんの人間がいるのに、友達が主に僕らだけっていうのはさ、つまらないだろ?」

ミカエラと目が合った。大きくて美しいその瞳で、俺とユマの両方を交互に見ている。

「新たな可能性か……こんな気持ちも、悪くないね」

サムのその言葉で、手の中のユマは緊張がほぐれたように笑った。ドライブに行った時の、あの時の笑顔だった。込み上げる新しい気持ちになんて名前をつけていいか分からなくて、また考える間も無く保護区に連絡を入れた。

オプティマス、紹介したい友達が、出来ました。

2018/06/30