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I Need You!

彼女と過ごす1日目ーside B

一夜明け、彼女はよそ行きの恰好をして、俺に乗り込んだ。柔らかい体の感触がして、

「これから、サミュエルにあなたを…返しに行くね」

そう言った。
なんだって?そんなに俺が嫌か?そう思った時にそっと手が触れた。ハンドルを握る柔らかさが伝わる。サムやミカエラとは違う感覚だ。こういうのは新鮮でいい。
しかしなんでまた…まだ1日目だぞ!

「あ、…えーと…、あ!シートベルト」

サムの家に俺を返しに行くと言うのなら、運転の援護は一切しないからな。まだチャンスも貰えてないんだ、俺は。
…と思っていたら、彼女はシートベルトを外し、まるで生き物でも見るかのようにシートベルトを眺めたあと、ほ、と小さく安堵の息を吐いた。

「よし、じゃあ…事故だけはしないようにしなくちゃ…」

初心者の運転はなんだか、体が痒くなるというか、ムズムズするんだよな。サムが最初に運転した時もそうだった。しかし今回の方がそのむず痒さが酷そうだ。カーステを見つめてくる目の色は、ダークブラウン。くすみのないその瞳の奥に、無機質な自分の擬態が写っている。
先の戦いで新たな擬装が必要だった為に、2009年型をスキャンした古い俺の身体は、本当は彼女の好きなデザインではなかったのかもしれない。

「…少しの間だけ、パートナーでいてね。…よろしくね」

そもそもこうなったのは、何故だろう。15年前に助けたボールの少女が成長した。俺を覚えているかなんとなく確かめたかっただけだったが、興味が湧き、彼女に近づいたが、…怖がられている。

「ほ…おっと、あ、ここを右だ!」

だけど本当に初心者は…危険な運転をする。面白いくらいに。いざとなれば避ければ良いし、それが直接自分に影響することは無いが、手伝いをしないと決めた。だから手助けができない。

「…と、遠い…」

もう後悔してるし。
言っておくけど全く遠くないからね。
そうこうしているうちに、サムの家に着いた。ほら、近かっただろ。安全かつ初心者にも優しい道幅の、最短ルートだ。こんなドライバー思いの車が今までいたか?いや、いない。
ユマは停車した後サムの家を見上げながら、ゆっくりと降りた。おずおずとインターフォンを押す仕草が見えたが、しばらくしてもサムは出てこなかった。彼はどうやら留守のようだ。俺はラッキーだと思ったが、彼女の方はというと困った顔をして、どこかに電話し始めた。サムに電話しているのか…ひっそりと回線に介入してみる。針の先ほどの罪悪感はあったが、通信経路を切った。

「うそでしょ…」

今ここでサムに繋がってしまったら俺は負けて、彼女と友達になれなかったいう事になる。こんな早くにその結果が出てしまってサムに”ほら見ろ”といわれたら、それはそれで気分が悪い。彼女が俺に振り向いた。視線を彷徨わせ、途方に暮れた表情をしている。
針の先ほどの罪悪感が、針全体くらいの罪悪感に変わった。
彼女は再びサムに電話をかけた。
そして、彼につながらない事で諦めがついたのか、仕方なさそうに俺に乗り込むと、

「今、ご主人様、いないみたいだよ。出直そう」

そう言った。
ご主人様、か。人間にとっては車が従者、になるんだな。まぁ、どんな風に捉えてもいいんだけどさ。
その言葉でそう思った時に、なんとも形容できないような不思議な音がした。彼女の腹部から空腹のサインが聞こえたのだ。

「とりあえず、なんか買って、帰ろ…」

力なくそう呟き、俺を起動させてはみたものの、それから先が進まない。今彼女が、とてつもなく腑抜けに見える。

「ああ、昨日の自動操縦みたいなアレ、どうやるんだろ?」

カーナビゲーションを搭載したパネルをデタラメにいじくり回して彼女は急に、自分の住所だったり、生年月日などを入力している。
ん、もうすぐこの子、誕生日だな。
指紋をぺたぺたくっつけながら入力するたどたどしい指の先から、気疲れした頼りなさをくみ取る。
……確かに今日は、初めての運転にしては頑張ったよな。
彼女が何かブツブツ言いながら、さっき入力した自分の名前をバックスペースで消していき、何を思ったかサムの名前に書き換えようとしている。
別にいいよ、このままで。
大丈夫。

「ん!?うぇ!!ちょ、ちょっと待って、元に…」

戻すわけないでしょ。

「…あー…もー…」

なにが。いいんだよこれで。今は君の俺なんだから。

「…行きます、帰ります」

そうそう。しおらしくてよろしい。
サムのお気に入りの香りでリフレッシュさせてやろうかな。ベルガモットとか。シトラスとかね。

「ん?いい匂い…」

ほうっと洩れた優しい吐息。疲れを少し忘れて、柔らかな表情で運転を始めた彼女を見て、なんとなくこっちも安心した。

「…なーんか、すごい車だなぁ」

上機嫌になって、運転楽しいかもーと呟いた彼女を見る。ぎこちなかったハンドリングも、なかなか滑らかになってきた。著しい成長だ。人間は常に潜在的に自分のベストな状態を作ろうと変化していくものだ。彼女の上達もそれだと思った。
生命体自体が未発達で…見ていて楽しい、人間ってそんな感じだ。
信号待ちで、ふとユマが視線を外し、店のショーウィンドウを見ている。ユマを乗せた俺は、とても新鮮で…
うん、なかなかいい!

「んー…!惜しい!!」

…ってええ───!?
惜しいってなんだよ!?
なにが不満なんだよ、ほーんとにさ!

2015.04.30