いつもの副長じゃない!


…なんだろう。

何だか、物凄くやりづらい。

「…あのォ、副長?」
「なんだ」
「そ、そんなに見つめられると…すっごくやりづらいんですけど」

チラ、顔を上げれば目の前に瞳孔ガン開きの副長。

隊服のボタンが取れた、と。彼がここに来たのは数分前のこと。

真選組の女中をしている私はそれを二つ返事でお受けして、副長の隊服を受け取ったんだけど。

「…見ちゃ悪ィのか?」
「い、いえ滅相もございません」

何故かさっきからずっと、私の手元をガン見の副長。

少しでも顔を上げようもんならあの鋭い目と目が合っちゃうから上げようにも上げられない。

…なにこれ。気まずいよ。気まずすぎるよ。

「…ナマエ」
「はい?」
「あー、そのだな」
「?どうかしました?」
「…そう、どうかしてんだ俺は」
「はぁ?」

ちくちくとボタンを付けている手元から目の前で複雑そうな顔をしてる副長に視線を移して首を傾げる。

何が言いたいんだろう、この人。言ってることが意味不明すぎる。

「本当にどうしちゃったんですか副長。いつもの副長じゃないですよ」

鬼の、副長はどこにいったんですか?と。

普段言おうもんなら拳骨の一発でも落ちてきそうな発言にも彼はもじもじと俯くだけ。…本当にどうしちゃったの!?

「お、お疲れですか?まぁ毎日書類整理で徹夜ですもんね?そりゃおかしくもなりますよね?」
「あー、いや違う。だから、その。だな…」
「良ければ横になります?お布団敷きますよ、女中部屋で良ければですけど」

はい終了、と。今の間でボタン付けが終わった隊服をとりあえず目の前の副長に渡すと私はよっこらせ、と立ち上がる。

勿論、布団を出すために。

確か使ってない布団があったはず、と押し入れを開けた途端ぐいっと体ごと引き寄せられてボスン、と上手い具合に収まった。

…何に、ってそりゃ。この部屋にいるのは私と副長の二人だけだし。

「ふ、副長?え?もう限界なんですか?立ってるのもやっととか?ちょ、待ってください。すぐ出すんで布団…」
「違ェよ」
「え?」
「…鈍すぎんだよ、テメーは」

鈍い?何が?訳が分からず振り返って見上げた先。目の前に、副長の顔があって。

「…っ副、!」
「ナマエ、お前に聞いてほしいことがある」
「え、?」

すっと下りてきたその顔がゼロの距離になる前に耳元で聞こえた声。

…お前が好きだ。

予想だにしていなかったその言葉に、唇に触れた柔らかいものの感触を忘れてしまうくらい驚いて。

「ちょ、副長!?今の…っ!」
「っお前は、どうなんだよ!」
「…あの、副長。顔真っ赤です」
「う、うるせェェエ!」

もういい!仕事に戻る!これ助かったわじゃあな!と捲し立てて。

真っ赤な顔のまま慌てて襖の向こうに消えていくその背中をしばらく呆然と見ていたけれど。

「っちょ、待ってください副長!私の返事聞いてくださいっ!」

開けっ放しの襖から飛び出して。

「副長!待って!私も、私も好きなんですっ!待っ…ちょ、無視ですかァァア!?」

ドタバタ、と。まるで追いかけっこのように廊下を走る二人を。局長が、青春だなぁ〜!なんて言いながら見ていたなんてこの時の私たちは知る由もない。



(好きですっ!副長!大好きなんですっ!副長ォォオ!)
(だぁぁあ!もう分かった!分かったから!頼むから黙ってくんない!?お願いします!)
(まるでマヨネーズのキャップみたいに真っ赤な顔…)
(…分かり辛いわっ!!)

end

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