mononoke2 | ナノ
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誕生日祝いの昼食後、ふたりは当初の目的だった買い物をしに、ショッピングセンターへと向かった。服を買ったりした後、ぶらりと館内にあるゲームセンターへ行く。


「あ、翼だ」


声を上げた実希の視線を辿れば、男3人がUFOキャッチャーに向かっていて、その中に翼の姿があった。実希はためらいも無く駆け寄る。


「奇遇!」
「ばっ、お前邪魔すんなし」


背中を強く叩かれた翼は、実希だと気付いたのだろう。親しげに悪態をつく様子は、普段夢香に対するどぎまぎとした様子とは違い、親しみやすさを感じた。


「よっしゃ、取れた」


取れたのは両手で抱えるほどの大きなアルパカのぬいぐるみ。くりっとした目が特徴的で可愛らしい代物だ。実希はそれを見て笑う。


「そんなおっきなの取ってどうすんの?似合わないからあたしが貰ってあげよう」
「うっせ。お前にやるくらいなら車に飾るし」


そう言いながらぬいぐるみを抱えて我が物顔で振り向いた翼は、夢香を視界に入れて思わず固まる。みるみるうちに顔に赤みが差したため、その場にいた全員が驚いた。


「ちょっと翼、分かりやすすぎ」


笑いながら言った実希に、近くにいた翼の友人ふたりも状況を察して冷やかしに入る。それをうるさいと蹴散らし、翼は口を引き結んだ。


「これ、やる」
「え、でも車に飾るって今……」
「いや、邪魔になるし。実希にやるくらいならって話で」


実希がじと目で翼を見る。しかしその口元は笑っていた。


「ひっどー。まぁ夢香誕生日だし遠慮なく貰っちゃいなよ」
「え、今日誕生日!?おめでとう!これプレゼント、って言っても200円で取ったもので悪いんだけど……」


ぐいと押し付けられ、思わず夢香は受け取る。予想以上にふわふわした感触にちょっと欲しくなる。


「なんなら別のものにするけど」


驚いたまま固まっていた夢香の様子を、気に入らないと解釈した翼の気遣いに、慌てて夢香は首を横に振る。


「いや、ありがとう!気に入ったから」


翼はその言葉に笑顔を零す。強張っていた表情が崩れたことに、夢香もまた緊張が解れ笑顔で返した。


「じゃあ、また。あ、そういや実希、お前貸したマンガ返せよ。他の奴に貸す約束してんだから」
「あ、忘れてた。ごめんごめん!明日返しに行く」


友達と去っていく翼を、夢香はアルパカの感触をぐにぐに楽しみながら見送る。


「実希、仲良いんだねぇ」
「えーそう?ま、腐れ縁みたいなもんだから。それよりどうするかね……」
「何が?」
「いやいや、なんでもない」


実希はもともと翼の恋を応援していた。見た目や態度はつんけんしており悪そうにも見えるが、意外にあれで誠実だし一途なのだ。
夢香に一目惚れしていて、夢香もその時は相手が居なかった。だからこのふたりが仲良くなれば、お似合いなんじゃないかと思った。
しかし今、夢香が薬売りの事を確実に好きになっている。たとえ二次元のキャラで、非現実的なことであっても、今目の前に彼は居るのだから、それを否定することは実希にはできなかった。


(薬売りさんの気持ちが重要になるよね……)


どう転ぶかは、薬売りさんの気持ちと行動にかかっている。そう断言できた。薬売りが夢香のことを好きになれば、ふたりは両思いだ。可哀想だが翼は諦めるしかない。もし薬売りが夢香に何の感情も見いだせず、目の前から去る日が来るのならば、夢香が諦めるしかない。


(でもな、あたしには薬売りさんが夢香の事、特別に思っていないようには見えないんだよね……)


何故なら、ふたりが一緒に生活する、ちゃんとした理由があるように思えないからだ。保護してくれる夢香の存在は便利だろうが、薬売りにとってはひとりの方が融通が利いて良いように思える。気まぐれに一緒にいるのを楽しんでいるとしたら、それが真実、特別なのではないだろうか。


(ここまで一緒にいて、はいさよなら、じゃ許さないんだから)


夢香が傷付くのは目に見えている。それは本当に見たくなかった。

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