samurai7 | ナノ
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戦から十年を経た再会。


――イツモフタリデ。


カンベエとシチロージは、障子を開け放った場所に座り、
月と蛍の僅かな光の中で語り合っていた。


シチロージは三味線をつま弾き、即興でつくった唄を歌う。


――三千世界の野伏せり斬って
斬って斬られて斬られ損


サムライの悲しき姿を現す。
しかしそれでもなお、シチロージはサムライを止められない。
決意を固めたように、穏やかに「お供します」と告げた。


「金にも出世にもならぬ、難しい戦だ」


カンベエの言葉に、頷きを返す。


「今度こそ、死ぬかもしれんぞ」


シチロージは臆すること無く、その言葉にさえも静かに笑みを返した。
ユキノにはこれまでサムライは止めたと本心を言ってきたつもりだったが、
結局捨てきれてはいなかったのだ。
シチロージはあの日から何も変わってはいなかった。


戦と聞いて疼く自分
そして目の前の友の姿


ずっとこんな日が来るのを待ち望んでいたのだろう。



静かな時が流れる。
しかし突然、隣の部屋でバタバタと煩くなった。
隣は一行のためにとった部屋だ。すっかり皆眠りに着いていたと思ったのだが。


「賑やかですね。枕投げでもしてるんでしょか」


シチロージが笑う。カンベエも笑い「事の発端になりそうな奴は今はおらんのだがな」と言う。


その様子にシチロージはこれから共に行動するであろう
一行のことを思い浮かべる。


「そういえば、イチ……と呼ばれていましたか。あれは、女ですね」


そう口にした時、背後にある座敷の襖が開かれた。
そこには丁度話の種になっていたイチこと、ユメカ。
慌てたように「ごめんなさい!部屋を間違えました!」と襖を閉めようとする。


それを見てカンベエがふっと笑みを見せた。


「まぁ待てユメカ、こちらに来い」
「ユメカ……?」
「ああ、この者の真の名はな」


自分がこのふたりの時間に入っても良いのかとユメカは恐る恐る近付く。
シチロージは目の前まで来たユメカをまじまじと見て、口を開いた。


「こりゃまた。先程とは打って変わって別嬪で」
「へ?」


今のユメカはお風呂上りで長い髪を下ろし、
化粧できつくしていた目元もいつも通り柔らかだ。
男の衣を身に着けているとはいえ、華やかな形[なり]。
先程受けた印象――女ということを隠しているのとは違い、目の前にいるのは今は完璧な女だった。


「皆承知の事実でしたか」


こうしてもう女ということを隠していないことから察し、シチロージは苦笑した。


「え、え、どういうこと?」


状況が掴めないユメカが焦り、カンベエを見れば「お主が女ではないかとシチロージは気付いてな」と返される。
心底驚いたという風に、ユメカはシチロージを見た。


「分かったの!?」
「そりゃね。首を見れば一目で」
「首……」
「男にはある喉仏が無いってことでげすよ。
男装するんだったらまず喉は隠さないと」
「へー!なるほど」


関心したようにユメカは微笑む。
しかしそれに付け加え「ま、それは確信に繋がっただけで、他に理由もありますが」とシチロージは言い、
ユメカが疑問を浮かべたような表情を見せる。
カンベエがそこに口を挟んだ。


「なんせこやつは色男だ」
「おや、酷い言い様で」


ユメカがふたりの様子を見て楽しそうに微笑む。


「ところで、何故男装を?」
「あ、虹雅峡でちょっとウキョウに追われてて……
ここまで男装して来たのは意味無かったかもしれないんだけど」


苦笑いしながらのユメカの言葉に、
シチロージはああ!と額をぺしと叩いた。


「アタシとしたことが、すっかり忘れていやした。
此処癒しの里でもユメカのこと、噂になっていますぜ」
「え……」
「差配のドラ息子がお熱だとか。ここまで男装してきたのは正解でしたよ。
此処は身分は無い決まりといえど、差配のご機嫌をとりたい奴らはごまんといやがる」


それを聞き、ユメカは身震いした。
もしも此処が自分のせいでばれてしまっていたらどうなっていただろうという、恐ろしい考えが頭をよぎったのだ。



「あら、此処にいたの?」


突然ユキノの声が響き、開けたままの襖から姿を現す。


「今からキララさんにお化粧をするの。
ユメカさんも一緒にと思って」
「わっ本当ですか!」
「ええ、着物も着せてあげる。右隣の部屋を使うからいらっしゃいね」
「はい」


喜んで返事を返す。
そして――――違和感。

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