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――追っ手は!?
化粧をする時間なんて本来ならば無いはず。
機械のサムライが此処にいることをウキョウ達が知り、
蛍屋に来て乱闘ごとになっていたはずなのだ。
ユメカは慌ててカンベエとシチロージの部屋を出る。
(何で…!?何が変わってるの!?)
ウキョウ達が探して此処まで来ていないのだろうか。
それともキクチヨが此処にいないのだろうか。
それとも……
最悪の事態が頭に浮かぶ。
それは、コマチに言ったことが嘘になってしまうこと。
丁度そこに、女中の人が通り掛かる。
慌ててユメカは駆け寄った。
「あの…!すみません、此処にキク…機械のサムライは泊まっていますか!?」
「え?うーん……」
「赤い鎧なんですけど…!」
心当たりが無いと女中は困ったように眉尻を下げる。
どうしよう、此処にキクチヨがいない!?と焦れば、別の方向から来た女中も何事かとこちらに来る。
同じように必死になって聞けば、
ああ……と反応を示した。
「怖そうなお客さんだったから、ばぁや…えっと、此処で一番年長の人なんだけど
その人が鶯[うぐいす]の間で相手してるはずよ」
「……!ありがとうございます!」
早速自分達が泊まる座敷から吹き抜けを挟み対称の位置にある座敷へと向かう。
鶯の間かどうかは分からないが、アニメを観た記憶では此処にキクチヨがいるはずだとユメカは確信した。
とにかく早く自分の目で確かめたくて、襖の前で息を整え、そっと小さく隙間をつくる。
月明かりがその隙間から中を照らし出した。
そこには大の字になって寝るキクチヨと、同じようにすっかり眠りについたおばあさん。
心底安心し、胸を撫で下ろす。
――キクチヨはちゃんと此処に来ていた。
じゃあ、ウキョウ達が来ていないことになる。……なんで?
これからどうなっていくのだろう。
言いようの無い不安を感じる。
しかし傍を飛ぶ蛍の光は、大丈夫だよ、とまるで言っているかのように優しい光を放っていて
ユメカはその光にすがるかの様にじっと目で追った。
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08.08.28 tokika/加筆修正:09.02.22