samurai7 | ナノ
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食事が終わり、汚れと疲れを取るために思い思いに入浴ということになった。
ユキノがキララを呼び部屋を出て行く様子に、慌ててユメカも立ち上がる。
縁側まで出てふたりを引き止めた。


「あの!私もご一緒していいですか…?」


ユキノが驚いたように振り向く。


「でも貴方……」


ユキノが途惑う様子にキララが慌てたように口を開いた。


「ユキノさん、イチさんは訳あって男装なさってるんです。
本当のお名前はユメカさんと……」
「あら、いやだ。私ったら…!
声がかわいらしいとは思ったけれど、ごめんなさいね」


その言葉に「いえいえ…!」と首を横に振るユメカ。
男装しているのだから、気付かれなくて当たり前と心得ていたため、紛らわしくてすみません、と笑顔を返した。


暫く行ったところにお客用では無いお風呂場があり、脱衣場でまず服を脱ぐ。
するとユキノがユメカの様子を見て驚いた。


「あなた、包帯してるじゃない。酷い怪我なの?」
「え……と、木の枝で切ったんですけど、
縫う程じゃ無いとは言われました」


そう言いながらヒョーゴの言葉を思い出す。
ヒョーゴとキュウゾウは、今頃ウキョウと一緒に此処――癒しの里まで来ているのだろう。


「お風呂に入って大丈夫かしら……ちょっと見せて頂戴ね」


ユメカは頷き、包帯を外す。
自分自身も包帯を巻かれてから怪我の様子を見ていなかったので、不安になりながら恐る恐る見る。
するとかさぶたとは呼べない脆い感じで、傷口は塞がっていた。
丁寧に治療されたお陰で、炎症は全く見られない。


「これじゃあ……湯船に浸かるのは止めておいた方がよさそうね。傷口が開いてばい菌が入るといけないから」


じゃあどうしよう、とユメカはユキノを見る。
するとにこりと笑って「傷口に湯が当たらないように洗ってあげる」と言った為、ユメカはよかった、と安心した。
体は汗や砂で汚れているため、お風呂に入れないのは本当に辛い。
ユキノには大変なことをさせてしまうことになるが、ユメカは優しさに素直に甘えることにした。



お風呂場に入り、先ずメイクを落とす。
目元に濃く入れていたため落とすのは至難の業だったがどうにか終え、タオルで拭いた。


「あら、お化粧で随分変わっていたのね。
お化粧を取ったらすっかり女の子」


ユキノの言葉にユメカはきょとんと顔を向ける。


「そんなに違いますか?」
「ええ、目元なんてまるで役者みたいにつり目になってたもの。
まさかこんなにぱっちりとした優しい目をしてるなんて分からなかったわ」


キララもユキノの言葉に同意しているようで頷く。


「だから私、てっきりさっきの食事風景を見て、
キララさんとユメカさんは恋仲なのかとさえ思っちゃった」


ユキノが楽しそうに笑うため、キララは「そんな…!」と声を上げ、かぁっと頬を染める。
まさかユメカもそんな勘違いをされているとは思わなくて、びっくりして目を丸くした。


「お似合いだったわよ、あなた達」
「……あまりからかわないで下さい」


困ったようにキララがか細い声を上げたため、
ユキノは「ごめんなさい、つい楽しくて」と、ほんの少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「じゃあ、せっかく女三人水入らずなんだから、恋話に花でも咲かせましょうか」


ユキノさんの提案に、ユメカはどきりと心臓が跳ねる。
そんなちょっとした変化にユキノはしっかりと気付き、ユメカの背中を洗いながら尋ねた。


「今頭に浮かんだ殿方は誰かしら」
「……っ」


――キュウゾウ


ぼぼぼっと熱が上がる。


「あらあら、真っ赤。本当に好きなのね」
「ーー……はい」


もう認めるしかないこの想い。
アニメとして観ていた時、好きだと感じていたものとは違う心の高鳴りだった。
実際に出逢って、数は少ないが言葉を交わして……
もう本当にキュウゾウに気持ちは囚われていた。


「此処にいるおサムライ?」
「っいいえ」


咄嗟の質問に頭が回らず、ユメカは正直に答えてしまう。
キララが小さく反応した。


「あら、そうなの。それは気になるわねぇ。
キララさんはどうなのかしら」
「わ、私ですか……?」


キララはびくりとし、困ったように考える。


「男の方なんて興味ないです。
……でも、ユキノさんとシチロージ様を見てると、素敵だなって思います」
「ありがとう」


ユキノは、とても幸せそうにお礼を言う。
しかし直ぐにどこか悲しげな雰囲気をまとった。


「でも桃太郎は、いつか鬼退治に行っちゃうの」


その一言には、沢山の複雑な想いが込められているようで、
ユメカは胸が締め付けられるような気持ちになった。

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