samurai7 | ナノ
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(ここは……)


酷く混乱しながらユメカは目覚めた。
瞳が安定せず、恐怖で視界が揺れる。
しかし今自分がいるのは布団の中だということを理解し、なるべくゆっくりと周りを見渡した。


(マサムネさんの家だ……)


ほっと息を吐く。
先程の都での出来事は悪い夢だったのだろう。
夢にしては妙にリアルだったため、本当に恐ろしかったが。
あんなものがこれからの現実になってしまったら、自分は耐えられない……と肩を震わす。


(……ヘイさんは?)


そういえば、一度夢から目覚めた気がした。
その時に夢だと、安心させてくれる温もりを貰ったような気がする。
頭を撫でられた感触をぼんやりと思い出し、少し頬が染まった。


「お礼言わなきゃ」


ゆっくりと起き上がれば、ちくりと左の太ももが痛む。
ああ、怪我をしてたんだっけ。そう思い出し、皮肉にも痛みで自分の記憶がはっきりした。


土間に顔を覗かせれば、ほとんどの皆が揃っていた。
ヘイハチの姿を見つけ、一瞬途惑うが名を呼ぶ。


「ヘイさん」
「ん?ああ、ユメカ。起きても大丈夫なんですか?」
「うん、平気」


ヘイハチの笑顔で、ようやく不安が渦巻いているようなもやもやが取れる。
いつもの調子に戻りユメカの顔に自然と笑顔が戻った。


「えっと、昨日……ありがとう」
「何のことです?」


ヘイハチの言葉にユメカが途惑う。


(え、え、ヘイハチが錯乱した私を落ち着かせてくれたんじゃ!?)


しかし定かでない記憶だったため、慌てて手を振った。


「あ、の…!違ったらいいの!
なんかヘイさんが、うなされてた私を助けてくれたような〜…って!」
「……?」
「ごめんっ!勘違いかも!」


不思議そうな顔をされて、慌てて更に両手を振る。
きっとあれも夢だったのかもしれない、と直ぐに結論が出た。
ヘイハチに抱きしめられた記憶が自分の只の妄想だったのだとすれば、恥ずかしすぎるためユメカは赤面した。


「ほんっと気にしないで!!」


必死に熱くなりながら全否定するユメカ。
ヘイハチは辛い夢をあやふやにさせるために、
何事も無かったかのように一芝居をうっているのだが、そんなことなどユメカは知りようがなかった。


その時、カンベエや皆がユメカの元に集まった。
昨日のことを問われ、ユメカは一呼吸置くことで自分を落ち着かせ詳しく話した。


「成る程な」


カンベエにとって予想通りの答えだったようだ。
そこに今まで外に出ていたゴロベエが土間に入ってくる。


「おお、ユメカ、目覚めたか。
しかしカンベエ殿、なにやら外は大変なことになっていますぞ」


その言葉に一同がどうしたのかと注目する。


「ユメカの尋ね紙がいたるところに貼られておったのだ。
これはもう、本気でウキョウとやらが探しているとみられる」
「えぇ!?」
(キララちゃんの時はそんなこと無かったのに!なんで…!)


自分は農民では無いから公にできるということだろうか。
予想外の出来事に唇を噛む。


「鮮明な似顔絵が載っておってな。
ユメカは当分の間外には出られんぞ」
「そんな!」


それでは本当にただのお荷物になってしまう。
この状況では捨て置かれるかもしれないと焦り、ユメカは良い策を探していつもに無く脳をフル回転させる。
そしてその割には単純な策を思いついた。


「はい!私、男装します!!」


勢いよく言ってみたはいいが、この場の時が止まったかのように皆が固まった。


「………えっと。
すみません。馬鹿な発言でした」


沈黙に耐え切れず、自ら策を却下する。
だがカンベエが少しの笑みを含み頷いた。


「いい策かもしれんな。
知る者に出会えば役に立たぬだろうが、
他人の目を欺くことはできよう」


カンベエに賛成してもらえるのは心強い。
皆も確かに……という雰囲気になり
心の中でやった!とガッツポーズをした。
ハッキリ言って今の服はひらひらで動き辛いため、ユメカは何かしら別のものに着替えたかったのだ。


「では、私が買いに」


カツシロウが出て行こうとする。
それをユメカは慌てて引き止めた。
寝室に放置している自分の鞄から装飾屋で働いて稼いだお金を持ってくる。


「これで買ってきて」
「いや、私が……」
「ううん、私の服だからさ」


そう言ってカツシロウの手のひらに乗せれば、カツシロウが頷く。


「ありがとう。
あ!あと、長い髪が目立つと思うからさ、隠せるような何かもお願い…!」
「承知した。頭巾のようなもので良いな」


その言葉にうん、と返事を返す。
どんな服を買ってくるのか少しわくわくしながら、ユメカはカツシロウを送り出した。

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