samurai7 | ナノ
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暫く経ち、カツシロウが戻ってきた。
残り僅かになったお金と、着替えの入った袋がユメカに渡される。
ユメカはありがとうとお礼を言い、着替えるために寝室に行った。


袋から取り出してみれば、全体的に爽やかな青竹色の衣が現れた。
所々に洒落た花柄が入っており、気を利かせてくれたのが見て取れる。
若いカツシロウに買ってきてもらえて正解だった、とユメカは嬉しくなってくすりと笑った。


袖を通せば、簡単に着ることができる着物といった感じだろうか。
もともと胸は小ぶりなため、何もせずとも着物のようなつくりは女性らしい体型を隠してくれた。
しかしサラシで巻くほど胸は無かったという事実には少々虚しさを覚える。
気を取り直して黒いズボンを穿き、最後に藍色の帯を締めた。


「……なんか一般人よりは目立ってない?」


なかなか好きな格好だったが、今まですれ違ったりする一般人で見ないような華やかさだ。


(まぁ、いっか)


とりあえずユメカだとばれなければいいのだ。
長い髪をお団子にして持ち上げる。そして指輪を包んだ布でまた結ぶ。
その上から頭に帯と同じ色の頭巾を被せ、バンダナのように後ろで結んだ。


鏡を見てみれば、男と言えば通りそうな姿が映る。
しかし自分の顔に違和感を覚えた。ハッキリ言って女顔だ。
メイクでどうにかなるかなと考え、自分の鞄をあさる。
そして久々に見るメイクのポーチを取り出した。


まさか男装でメイクしようと考えるとは……。我ながら女失格かもしれない、とユメカは思った。
目元がきりっと仕上がるように意識してブラウンのアイシャドーを入れる。
そしてアイラインを切れ長の目に見えるように入れた。


(……こんな感じでいいかな)


先程よりは大分ましだ。似顔絵ではバレないだろう。
よっし!と意気込んで最後に用意された靴を履き、土間に戻った。


「これはこれは……」


ヘイハチがユメカを見た途端片目を開く。
この場にいるカツシロウやキララやコマチも言葉を失ったようにユメカを見た。
凝視されることで、なんだか間違ったことをしているような恥ずかしさがユメカを襲う。


「やっぱ……こんなんじゃ駄目かな」
「いやー!寧ろ関心いたしました。
ここまで変装というのはうまくいくものなのですね。
先程のユメカとは別人です」


自分も何かあった時には参考にします、とヘイハチがうんうん頷く。
ヘイハチにはこちらが関心するくらい女装が上手なんだけどな……と、ユメカは苦笑いをもらしつつ心の中でつっこんだ。


ヘイハチは笑みを湛えて口を開く。


「では、早速私達もサムライ探しに出ましょうかね
……と、その前に」
「その前に?」
「男装したのにユメカじゃ駄目でしょう」
「あ……そういえば」


名前はどうします?と問われ、うーんと考える。
適当に男らしければ良いかと思い、イチという名を思いついた。


「じゃあ、イチで」
「承知いたしました。間違ってもユメカの名を出しては駄目ですよ、カツシロウ君」
「……!無論です」


キララとコマチとマサムネを工房に残し、
ユメカ達はサムライを探しに外に出た。


外に出てみれば本当に至るところに自分の顔が描かれた張り紙が貼られていて、ユメカは気持ちが悪くなる。
これでは犯罪者だ。


しかし、だれも今男装している自分と張り紙の女が同一人物とは思えないらしく
怪しい視線を送ってくる者はいなかった。
なんだか面白い……とユメカが思っていたその時。


「ねぇ、そこの貴方」


後方から女性の声がした。
自分に掛かった声とは思えず振り向かないでいれば、
袖をくいっと引っ張られる。
それにつられ振り向けば袴姿をした女性がふたり。


「え……っと、何か」


女性は鋭い。ばれたのだろうか。
内心ひやひやしながら不自然では無い程度に、
最大限声を低くして問いかけた。


「あのぉ……お時間あったら一緒にお茶しませんか?」
「え?」


「キャー!言っちゃった!」と、女の子ふたりは盛り上がる。


(これは………まさかの逆ナン?)


途惑うが、冷静を装って笑みを浮かべた。


「あーごめんね。今忙しいんだ」


その言葉にふたりはがっかりしたようなそぶりをみせ、
「また逢えたらお茶して下さいね!」との言葉を残して去っていった。


その様子をぽかんと見ていたカツシロウとヘイハチ。
ヘイハチが気が抜けたような笑顔でユメカを見た。


「イチがここまでモテるとは。
本来男である私達の面目が無いですね〜」


その言葉にユメカは、私の元いた世界だとヘイさんはモテモテですよ!と言いたくなる。
しかし、先程女性に好意をもたれるというのは悪い気がしなかった。


「うーん。男装、癖になるかもしれないな」
「……!?」


カツシロウが凄い形相でユメカを見たため、
ユメカは「冗談冗談…!」と焦って言葉を返す。


その時、頭上にある機械の掲示板に文字が流れだした。
それは『御勅使殺害によって、サムライ狩りを決行する』というものだった。



虹雅峡から離れる時が近いことをユメカは理解した。


→第十一話へ
08.07.16 tokika/加筆修正:09.02.15

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