samurai7 | ナノ
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「…………」


ユメカの問いに、男は無言のまま反応を返さない。
うつむいたままピクリともしないのだ。
先程のように刀を向けられる危険は無いように思えた夢香は、
勢いに乗って更に言葉を紡いだ。


「何で、こんな所にいるんですか?」


「…………」


「ここどこですか?」


「…………」


なにか情報を聞き出そうと聞き方を変えてみるが、何も答えてくれない。
諦めたように夢香は眉尻を下げ、ひとつ息を吐いた。


雨で冷えた身体がぶるりと震える。
しかし男は怪我をしたままこの雨に打たれているのだから、
自分よりも体温は奪われているだろうと咄嗟に思い立った。


身の回りを見回せば、なぜ今まで気にしなかったのか、学校の鞄が目に入った。
もしかしたら役に立つような物が入ってるかもしれないと、急いでガサゴソと中をあさる。


しかし特にこれといって役に立ちそうなものは何も無い。
目に付いたのは、体育のために持ってきたタオルくらいだった。
こんなに雨が降っていたら拭いても意味が無いだろうが、
余りに目の前の男の濡れようが酷いため、震える手でそのタオルを持ちその人の頭に触れた。


彼はほんの少し顔を上げ鋭い視線を向けてくる。
夢香はびくりと反応したが、男はすぐに眼を伏せてしまった。
今更引くことも躊躇われ、タオルでそっと金色の髪を拭く。


そのまま雨避けに少しでもなればと思いタオルを彼の頭に被せ、夢香も隣に腰を下ろした。


「痛そう……」


嫌でも目に付く服の血が気になり、
じっと見つめながら独り言のように呟いた。


「……返り血だ」


初めて返答が返ってきて夢香はぎょっと目を丸くした。
やはりキュウゾウを思わせる声で、胸が高鳴る。


「で、でもほらここ!斬れてる!血が出てるよ」


服が破れ、剥き出された腕から流れる血。
すると彼は傷を一瞥するなり


「……問題、ない」


血が止まっていない様子から、とても大丈夫とは思えないのだが。


「止血しないと…!」


目立つ傷は腕のその部分だけだったため、何か巻くものはないかと夢香はまた鞄をあさる。
そしてポケットにハンカチが入ってるのを思い出し、急いで手を突っ込み取り出した。
小さな花が描かれた、シンプルながらに可愛いものだ。


ソレを傷にきつめに巻きつける。
ハンカチにじわりと血がにじんだ。


「よし…!」


出来ることはやったつもりだと納得し、雨が止むのを待とうと決意した。
機械の壁に寄りかかる。


「かたじけない」


急に彼の口から出てきた言葉。
感情が見えないそっけない言い方だが、確かにお礼の言葉で。
キュウゾウの言葉で……。

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