samurai7 | ナノ
09
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ヘイハチは布団にそっとユメカを下ろした。
脚に怪我をしているということだったが、
ひらひらした服に隠れているため現状では分からない。


(弱りましたね……)


「キララ殿」
「……はい」


呼びかけに答えたキララが近くに来る。


「すみませんが、ユメカの怪我の具合を確かめてはくれませんか。
さすがに私が女性の衣を捲るのはどうかと思うので……」


困ったように頬の辺りを人差し指でかく。
キララは初めはきょとんとしたが、納得して頷いた。
ヘイハチが後ろを向き、キララはそっとスカートの裾を捲った。


「…………」
「どうですか?」
「右の太もも……広い範囲ですが、綺麗に包帯が巻いてあります」
「そうですか、では治療の心配はありませんね」


広範囲というのは気になるが治療がしてあるということに一安心し、
ヘイハチは笑顔を浮かべ、振り向いた。
しかし、キララは視線を落とす。


「ユメカさんは……あのお方を何故好きになったのでしょう」
「それは……私には分かりませんねぇ」
「………あの方はカンベエ様を討とうとした敵。それなのに……」


ヘイハチがその言葉を聞き、ふうと息を吐く。


「人を好きになるのに、敵味方は関係ありませんよ」
「そんな…!許されないです」
「そうですね。でも敵味方、それに限らず
歳や、身分……全て関係無いんです。
相手を知り、好きになる時は好きになる。
気持ちに嘘はつけません」


キララがヘイハチの言葉にピクリと反応する。


「ですが、キララ殿の言うように表向き許されない恋となる場合もある。
だからこそ、気にしたユメカはコマチ坊にだけ語り、
サムライ達に秘密にしていて欲しいとお願いしたのでしょう」
「秘密に……?」
「ええ、コマチ坊がたいそう落ち込みながら言っていました。
サムライ達には秘密との約束で聞いたのに、
約束をやぶってしまったと。あの場に私がいましたしね」
「…………」
「まぁ、私はユメカから直接聞くまで
このことは聞かなかったことにします。
キララ殿はサムライではないので、お好きなように」


キララが目を伏せる。
目を伏せた先には、ユメカからプレゼントされ
振り子とは反対の腕に付けた琥珀色のブレスレットがあった。


「ユメカさんは、ふたつの指輪を持っています」


唐突なキララの発言に、ヘイハチは一瞬きょとんとした。


「そういえば、ユメカの指に指輪がありますね」


傍らで眠るユメカの左手を見ると、
確かにそこに紅い宝石がついた指輪があった。


「はい、その指輪と一緒のものをもうひとつ。
そちらの指輪は、もう渡すお方を決めているのだそうです」
「先程のサムライ……ですか」


キララは首を横に振った。


「コマチの言うことが本当ならばそうなるのでしょうが……。
ユメカさん本人からどなたにあげるのかは聞いていません。
ですが、その時の指輪を見つめるユメカさんはとても……幸せそうでした」


思い出すように、柔らかい表情を浮かべたキララは
自らの白い指でやんわりとブレスレットを撫ぜた。


「その時思ったんです。応援したいと……」


ヘイハチはその言葉を聞き、ふと優しい笑みを浮かべた。


「そうですか、ではキララ殿もユメカの口から聞くまではこのことは触れないようにしてはどうでしょう。
時間が色々解決してくれることもありますよ。
素直に応援できる日がくるかもしれません」


ヘイハチ自身、自分に言い聞かせるように言う部分があった。
しかし本人は意識していないため、そのことに気付いていない。
キララはゆっくりと頷いた。


「……はい」


キララは思う。
時間が本当に解決してくれるのかもしれない……と。
何故なら、ユメカがキュウゾウに逢った時に
「今の人は敵じゃないよ」と断言していたからだった。
キララの気持ちは複雑だったが、
一方でユメカの言うことは信頼できた。


(ユメカさんは……導きの巫女かもしれないのだから)


キララのその考えを肯定するかのように、
水分りの振り子がほのかに光輝くのだった。


→第十話へ
08.06.15 tokika/加筆修正:09.02.12

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