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「お疲れさま〜」
自分の部屋の前に立つボウガンに声をかけたのは
テッサイを後ろに控えさせたウキョウだった。
ボウガンが一礼して扉の横に移動する。
「ごめんごめん、待たせたよね〜」
そう言いながら扉を開ける。だがそこにユメカの姿は無かった。
ウキョウの唇が弧を描く。一方ボウガンが驚きの声を上げた。
「な!この扉からは一歩も…!」
「ふ〜ん。ま、そうだろうねぇ。窓開いてるし」
窓にウキョウが近付き、思い切り身を乗り出した。
「若、危のうございます」
テッサイが注意する。
「へぇ、ユメカくんって意外と勇気あるんだ〜。
こんなとこから出たって下に降りられないだろうに、どうしたんだろ」
ウキョウが扉の外にいるボウガンを振り返った。
その表情はいつも通りの、穏やかでいて何を考えているのか計れない笑顔。
「実はボウガン、君のこと怪しいと思ってたんだよね〜。
ユメカくんと同じ髪飾り持ってたし」
その言葉にボウガンが目を見開く。しかしテッサイが先に口を開いた。
「若、それは先刻お話したように……」
「わかってるって〜!買ったって話は本当だったんだね。
もしも関係があるとしたらユメカくんと一緒にボウガンも消えてるだろうし」
「…………」
自分を此処に控えさせたのは偶然ではなく、
若が何か起こると踏んでの計画的なものだったことをボウガンは理解する。
自分の行動は読まれているのだと、ボウガンの額に密かに汗が滲んだ。
「じゃあさテッサイ、これからかむろ衆使ってユメカくん探させてよ。
御殿から出るなんて無理だし、すぐに見付かるでしょ」
「……承知」
「もしも見付からなかったら〜……。
ユメカくんの味方がこの屋敷にいることになるね」
テッサイはユメカを、農民達と共に行動しているところを見つけ、連れてきたというところまでは報告していなかった。
ウキョウは農民達とユメカの関係は無いものとしているため、
助けに来るものの存在は頭に無く、此処に味方がいる可能性を睨んだ。
あながち間違いでは無いのだが……。
「見付からなかったら、虹雅峡中に尋ね紙でも貼ろっか〜」
農民の娘以上ともいえる執着ぶりに、テッサイが深く溜息をつくのだった。
「キュウゾウ!」
戻ってきたキュウゾウの姿を見つけ、ヒョーゴが駆け寄る。
「今、かむろが総出で女をさがしている。
……無事帰したのか」
「…………」
無言のまま、自分の部屋へと向かうキュウゾウ。
それをいつも通り肯定と受け取り、腕を組んだヒョーゴは後姿を見送った。
(十年前キュウゾウと関わった女はユメカで間違いないようだな)
ユメカ本人にキュウゾウを知っているのか問おうとしたが、
タイミングが悪くキュウゾウが入ってきたことで聞けずに終わった。
だが、聞かずとも互いの態度を見れば分かる。
初対面のふたりでは無かった。
(しかし……ユメカの歳はいくつだ)
些細な疑問が残る。
キュウゾウが関心を持つ女に興味などないつもりだったが、
いつの間にか、色々な意味で謎の多いユメカは
ヒョーゴにとって気に掛かる存在となっていた。