samurai7 | ナノ
09
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「拠点は」


キュウゾウの言葉に一瞬場所を教えていいものかとユメカは途惑うが、
キュウゾウの性格から言って、他言をする可能性は全く無い。
一生懸命虹雅峡の景色を見渡す。
夜のわりに、街全体に明かりがあってよく見えた。


「あ…!あそこ、マサムネさんの工房」


指差した先を、キュウゾウは見る。
そしてこれから向かう下を見た。
理解したのだろう。


(怖い……)


さっき落ちる体験をしたのだ。
これから起こる感覚に、ユメカは体が強張る。


「怖ければ目を閉じていろ」


ユメカが硬直していたのが伝わったのか、キュウゾウが声をかける。
ユメカは一瞬驚き、素直に従うことにした。目を固く閉じる。



――――。



強い風が全身に当たるのを感じるが、思ったより落ちるという感覚が無かった。
キュウゾウがしっかりと抱いてくれているお陰か。
目を閉じていれば、キュウゾウと触れている部分の温もりを感じ、
段々と安心と嬉しさでユメカはまどろんでくる。


「……ありがとう」


なんだか今日は沢山の人に助けられた。
そう思い、徐々に眠りに落ちていった。















キララはユメカが帰ってくるのを待ちわび、
何度も工房の外へ出ていた。
もう五度目だろうか。しかし変化が訪れた。


崖となっている場所から、跳躍して突如目の前に現れた人物。
金の髪に紅い衣。その者の腕の中には驚くことに、
瞼をを閉じたユメカがいた。


「……っ」


キララが息を呑む。


「何故……貴方がユメカさんを…!」
「…………」


恐怖の色を浮かべながら睨みつけるキララをキュウゾウは見るが、
すぐに視線は工房の入り口に移った。


「失礼する」


そのまま入っていこうとするキュウゾウに驚愕し、
キララは制止するように目の前で両手を広げて立った。


「入ることは許しません。ユメカさんだけ渡して帰って下さい!」
「…………」


キララの只ならぬ声を聞きつけ、皆が出てくる。


「これは……一体どうしたのです」


ヘイハチはユメカを抱く見知らぬ男――サムライの姿に驚く。


「この方はカンベエ様を討とうとなさった敵なんです」
「……!」
「でも…!でも!ユメカ姉さま連れてきてくれたですよ!
入ってくださいです」


コマチが喜び、臆することなくキュウゾウを見上げる。


「コマチ…!なりません!!」


キララの怒る声に、コマチがびくりと反応する。
じわりと涙が浮かんだ。


「ユメカ姉さまはこの人のこと好いてるです!
だから姉さまの言う様な敵じゃないですよ!
姉さまの分からず屋!」
「「……!?」」


コマチの言葉に一同が驚く。
一瞬間が空き、ヘイハチがキュウゾウの前に出た。


「私が……お預かりしましょう」


そう言い、手を差し出す。


「……脚に怪我をしている。気をつけろ」
「……!……分かりました」


キュウゾウはそっとヘイハチの腕にユメカを渡した。
その様子に、皆緊張の糸が少し解れる。
するとキュウゾウはすぐに踵を返し、眼下の闇へと消えていった。

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