samurai7 | ナノ
09
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ヒョーゴにそっと降ろされたのは畳の上だった。


(もしかしてヒョーゴの部屋?)


周りを見渡せば、必要な物が整った綺麗な和室。
だが意識はすぐに自分の傷口に戻った。


「痛っ痛い!」
「我慢しろ、消毒だ」


怪我は幸い脚だけだったようだ。
しかし太ももの部分だったため、ユメカは治療されるのが恥ずかしくてたまらない。
そんなことなど意識していないヒョーゴは、表情も変えずに続いて薬を塗る。


「出血のわりに縫うほどでは無いな」


その言葉にユメカは一安心する。
包帯を巻く様子を、じっと見ていれば
ヒョーゴが視線をユメカに向けた。


「お前……名は」
「ユメカです。……貴方は?」


とっさに名を呼んでも不自然でないように聞き返す。


「ヒョーゴだ。
……そのなり、若に連れて来られたか」
「あ、はい」


包帯が巻き終わる。
丁寧に治療をしてくれたおかげで、最初程の痛みは無くなっていた。


「ありがとう」
「ふん、若の大事な女とあれば必要なことだ」


それが優しい言葉に聞こえるのは、
ヒョーゴを少なからず知ってるからだろう。
嬉しさからにこりと笑みを返す。


「……ユメカと言ったか、お前キュウゾウと」


ヒョーゴが何か言いかけた時、戸が開く。
驚くことに、戸を開けそこに立っていたのは……キュウゾウだった。


キュウゾウはじろり、とユメカに視線を向け
ユメカは慌てて治療のために乱れていた足元を正す。
一方ヒョーゴは笑みを浮かべた。


「なんだキュウゾウ、そちらから来るとは珍しいじゃないか」
「……血の、匂いがした」


相変わらず凄い嗅覚だと、ヒョーゴは呆れる。
するとキュウゾウの視線は再びユメカに戻った。


「……何故此処にいる」
「え!……ウキョウに連れてこられて」


そうユメカが答える間にもキュウゾウが近付いてくる。
それに合わせユメカの心臓が大きく鳴り始めた。


「その傷は」
「逃げようとして……上から落ちちゃって」


なんて自分はアホなんだと、質問に答えながら痛感していく。
がくりと肩を落としたとき、またもや浮遊感が襲った。


(ひぃぃ!近いーー!!)


本日二度目のお姫様抱っこに、
しかも、してくれているのがキュウゾウとあってユメカは一気に顔に熱が昇った。
混乱して逃げ出したい衝動に駆られるが、緊張で身体は固まってしまい、抵抗はできない。
いや、正直嬉しくて抵抗なんてできないといった方が正しいのかもしれなかった。


「な…っキュウゾウ!どうする気だ!」


ヒョーゴが驚き、戸から出ようとするキュウゾウの前に立ちはだかる。


「島田のもとに帰す」
「何を…!」


帰してくれるとは思ってもいなくて、
ユメカは近くにあるキュウゾウの端正な顔を驚いて見た。


「なんで……?」
「…………」


ヒョーゴは自ら決めたキュウゾウの意思を変えることは無理だと考え、戸から離れる。


「……好きにしろ」


キュウゾウはヒョーゴの部屋を出た。しかし直ぐに声がかかる。


「見付かればその首飛ぶぞ」
「…………」


ユメカを抱いたまま、キュウゾウはすたすたと歩く。


(首が飛ぶって……どうしよう、
私がここに来たせいでおかしなことになってる)


ユメカは怖くなってキュウゾウに声をかけた。


「大門は門番がいるって……無理だよ。
私のことはほっといて良いから」


キュウゾウは強い。些細なことは問題ないだろう。
だからといって自分のせいで何かあっては、これから仲間になるのだから困る。
それならばこの世界に関係が無い自分が消えた方がいいのだ、とユメカは思った。


「……問題ない。門は、通らぬ」
「へ……でも周りは崖って」
「行ける」

(ひーー……)


そういえばキュウゾウの跳躍力は相当なものだった。
そんなのお構いなしなんだ、とユメカは青ざめる。
そうこうしているうちに、気付けば吹き上げる風がまともに当たる高い塀の上に、キュウゾウは立っていた。

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