samurai7 | ナノ
09
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「ーー…っ」


想像以上に屋根の上は怖いものだった。
吹き上げる風は強く、ユメカは必死に壁に両手を当てながら慎重に歩く。


(あ、向こう側の屋根に行ったらなんとか下に降りられそう)


暗闇に慣れた目を凝らす。すると別の建物が見えた。
よかったと思い近付いてみれば
自分が居る屋根からその建物まで意外に距離があったため途方に暮れる。


「うまくジャンプしたら届くよね……」


建物までの距離は、過去に走り幅跳びで出した記録ぐらいのようだった。
でもその時は走り込んで跳んだから出た記録だったわけで
走ることが出来ない屋根の上では、はっきり言って無理な距離だった。


(でも他に降りられる方法がない)


今いる屋根は、下に通ずる場所が無かった。
あちらに行けなければ、ウキョウの部屋に戻るしか無くなってしまう。
それは絶対駄目だ。


「跳ぼう…!」


無理だとしても、落ちるから下には行けるだろう。
落ちれば命があるか分からないわけだが。


(大丈夫……跳べる)


意を決して腰を低くする。
遠くに跳ぼうと意識して目線を高くし、思い切り足に力を込めて跳んだ。


「…っ―ーーッ!」


しかし努力も虚しく、向こうの建物には届かず落ちてしまう。
だが途中運良く木の枝にぶつかり、地面への直撃は避けられた。お陰で命も助かる。


「うぅ……痛い」


枝にぶつかった痛みと、地面に打ち付けた痛みは相当なもので。
痛みと落ちた恐怖で無性に泣きたくなった。
だがそれはなんとか堪え、鼻をすする。
きっと自分は今酷い顔をしているだろう。
ぼんやりとそんな風に考えるが、
ここにいたら見付かるかもしれない、と思い直ぐに立ち上がろうとした。


「つっ……!」


電流のように更に痛みが走る。
あんな高さから落ちたのだ。無傷でいられるはずがなかった。
怪我をした箇所を確かめようと痛んだ足元を見れば、地面にじわりと広がる赤いモノ。


「嘘ッ!いやっ」


初めて見た自分の大量の血に、頭が真っ白になる。


「誰かいるのか!」


途端にかかった声。
びくりと肩を揺らし、もう駄目だ……と意識が遠くなる。
だが近くまで来た人物を、ユメカは恐る恐る見上げた。
そして両者ともが驚いた。


「お前…!」
「…………」

(あぁ……ヒョーゴだ)


安心からへらっと笑みが漏れる。
ヒョーゴは地面に徐々に広がる血に気付き眉根を寄せた。
自分は一体どうなるんだろう……そうユメカが思う頃には全身に浮遊感。


(うわわ…!)


近くにヒョーゴの顔。
世間一般で言う、お姫様抱っこという形だった。
声も出ないほど驚くが、血が減ったせいか頭はくらくらしていて
されるがままにユメカは腕に収まる。
そしてヒョーゴがどこか足早に向かっているのをユメカはぼんやりと理解した。

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