samurai7 | ナノ
04
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ユメカが咄嗟に叫んでしまった言葉。


カンベエの刀を振り下ろす腕は、すんでのところでピタリと止まった。
目の前で刀が止まったことに気付いたボウガンは、
苦しそうな声を漏らし、後ろに跳躍する。
そして今だ巻き上がる砂煙に身を隠した。


「…………」


(アニメ通りに死ななかった……。
ボウガンはまだ生きてる……!)


カンベエがユメカを見た。


「何故泣く」
「え……」


ユメカは驚いて目元に手を当ててみれば、手が濡れる。
無意識に涙が流れたようだった。


「あ……えっ
目にゴミが入ったのかな…!」


自分でも泣いた感覚が無かったため、
驚いて咄嗟に言い訳をしてしまう。
それを聞いたカンベエは「そうか……」と一言だけ言い、
戦いの腰を折ったユメカを咎めることなく視線を外した。


「う、うわァァァァ!!」


叫び声が耳に入り、ユメカはハッとしてそちらを見る。
瞳に映ったのは、ゴロベエがセンサーの機械の目玉に刀を貫く姿。


「……!!」


貫かれた箇所から火花が散り、センサーはドサリと倒れた。


―――死んだ。


死の瞬間を初めて目撃して、ユメカは脳が麻痺するような感じに襲われる。
直後、手に温もりを感じた。


「ユメカさん!お怪我はありませんか!?」
「あ……キララちゃん」


いつの間にかキララが手を握ってくれていることに気付く。
徐々に普段の感覚が戻ってきて、ユメカは表情を緩め頷いた。


「……うん、大丈夫」


無理をしていると感じたキララは、心配そうに見つめた。


「カンベエ殿、弓使いの方はどう致したので?」


目立つであろうボウガンの屍が無いため、ゴロベエが問う。


「なに。負け戦だ」
「ほう」


ゴロベエが驚きの表情を見せた。
実力からいって、負けはありえないものだった。
ユメカがふたりの会話に気付いて間に入る。


「私が殺さないでって言ったから…!」
「だが斬らぬ判断をしたのは、この儂だ」
「……ありがとうございます」
「礼を言われるようなことはしておらん」



周りを見渡してみても、ボウガンの姿は無かった。
あの左腕の負傷だ。あのまま姿を暗ましたのだろう。
ふたりの運命を変えることが叶わなかったのは辛いが、確実にひとりは助かった。


少しほっとしたらまた涙が浮かぶ。
今度は涙に気付いたため、周りに気付かれて心配させないよう必死に涙をぬぐった。
ゴロベエは目ばかりを擦るユメカの様子から悟り、
周りの注目を自分に向けるよう、キクチヨの頭を刀の背でこずいた。


「お馬鹿。おぬしが余計なことをしなければ、
もっと早くにしとめたものを」
「俺は!あんたに手ぇ貸そうとしただけだ!」


そんなふたりを見てカンベエが口を挟む。


「もうよい、二人とも。
キクチヨ、あれを如何にする」


カンベエの視線の先には、キクチヨが刀を使ったことで出来てしまった瓦礫の山。
あまりの大惨事に、そこにいるみんなが複雑な表情を浮かべる。
コマチがキクチヨの方を向いた。


「うわあ。凄いけど……皆さん困るです」


集まってきた野次馬達も、そして皆も、キクチヨの方を見る。
視線に居たたまれなくなったようにキクチヨも周りを見る。


「はあ。なんだよ、分かったよ分かったよ!
片付けりゃいいんだろ片付けりゃ!」


するとどこからか大きな手ぬぐいを取り出し、自分の頭に巻きつけた。


「てめぇの始末はてめぇでつけるでござる!ぷん!」


排気管からブシュッと、白煙が噴出した。
拗ねた様なキクチヨの可愛さに気がまぎれ、ユメカは思わず小さく笑う。
キララは安心したように、皆に向き直った。

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