samurai7 | ナノ
03
19 / 177

夜が明けると、直ぐにサムライ探しは始まる。
寝ても覚めてもユメカが元の世界に戻る気配は無く、
徐々にこちらの環境や雰囲気に慣れているようだった。


今日も定着した二班に別れ、
サムライを探し、虹雅峡の通りを歩く。
運良くSAMURAI7の主要人物を見つけたりすることが出来ないかと思い、ユメカはよく周りを見渡した。


「うーー……はぁ」


しかし簡単に見付かるはずも無く、唸っては溜息を吐いてしまう。
そんな時、肩にかけている学校の鞄を後ろから引っ張られたようで、
一緒に上体が後ろにクン、と下がった。
カツシロウとキララが異変に気付き、ユメカの方を見る。


「ん?」


ユメカも疑問に思って後ろを振り向けば、
少し低い位置に、おばあさんの顔があった。
鞄の方に目をやれば、そのおばあさんがしっかりと手で掴んでいることが分かる。


「えっと……何か用でしょうか?」


いきなりのことに戸惑ってそう返せば、
直ぐ隣にある一軒の店を空いているほうの手で指し、口を開いた。


「あなた、今日一日看板娘になってちょうだい」
「……はい?」


おばあさんが口に出した意外な言葉に混乱して、
気の抜けたような、返事を返してしまう。
ユメカが"どういうことですか?"というような返事を返したのに対し、
おばあさんは笑顔を浮かべる。


「そうかい!やってくれるかい!ありがとねぇ」
「え!?
いや、違います!今のは了解のはいじゃなくて…!」


わたわたと極度に焦っていると、
助け船を出すかのように、カツシロウが前に出た。


「我々には他にすべき事があるので。
すまぬが、他を探して頂きたい」
「一日だけなんだ。
アンタ、おサムライならちっちゃい事言うんじゃないよ」
「…むう……」


威勢の良いおばあさんに、カツシロウがたじろぐ。
そのままおばあさんはユメカに向き直った。


「お願いだよ。一日だけ!あの店、今日で閉めようと思うんだ。
ほら、見て分かる通り、あたしはもう老いぼれだからね。
だから売り物は全部売っちゃいたくて」


自分の店に視線を向ける。
それに沿ってユメカもお店の方を見た。
先程見たときには気にも留めなかったが、売り物が置かれるであろう棚に、
色とりどりの宝飾類が置いてあるのが目に付いた。
造花で作られた髪飾りもある。


「見たら分かるだろ?女の子向けの店さ」
「わ……素敵ですね」


食べ物屋が目立つ中……こんなお店もあったのかと驚き、
素直に感じたままの感想を言った。
するとおばあさんは心底嬉しそうに、柔らかく笑んだ。


「ありがとう。でも……こんな老いぼれが売るにはちょっと荷が重くてね。
あたしがあそこに立ってるんじゃ、お客も興味持てないの」
「そんなこと……
「ううん、本当にあたしじゃ駄目なの。でも――うちの商品をこうして付けて」


ユメカの方に手を伸ばし、耳の上辺りに花飾りの髪留めを付ける。


「惹きたててくれる看板娘ちゃんがいたら、絶対売れるわ」
「…………」


どうしよう、とユメカが困ったようにキララを見れば、


「紅梅色の素敵な髪飾り。椿さんによく似合ってます。
今日1日だけですし、手伝って差し上げたらどうでしょう」
「でもサムライ探しが……」
「売り出しをしながらだって、おサムライ様を探す事は出来ますし」


(あ、そっか!)


「じゃあおばあさん、私手伝います」
「そうかい!ありがとうねぇ。
早速来ておくれ、他にも飾り立てて、直ぐにでもお店に立ってもらわないと」


おばあさんに手を引かれたユメカは、
キララとカツシロウに一旦別れを告げ、お店の奥へと入って行った。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -