samurai7 | ナノ
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「うぅ……冷たっ」


料理を作るために野菜を洗っているが、やけに今日の水は冷たく感じる。すると、キクチヨが帰ってくるのを待ちきれず外に出ていたコマチが戸を開けて入ってくる。


「雪が降ってきたですよ!」
「えっ!どうりで寒いはずだよー」


開け放った戸の外を見れば、舞うように降ってくるふわりとした雪。昼間になるというのに太陽の光も感じられないため、積もるかもしれない。
汁物を作っていたキララがコマチに声を掛ける。


「コマチ、寒いから戸を閉めて。此処でお待ちなさい」
「えーー!せっかくの雪ですよ!オカラちゃんも呼んで外で遊ぶです」
「風邪をひいたらどうするんです」


キララが困った様にため息を吐いたため、ユメカは助け舟を出そうと口を挟む。


「キクチヨが帰って来てから外で遊んだら?積もった雪の方がきっと楽しいよ」
「そっか!そしたら雪だるまとかも作れるですね!どんなの作るか今から考えるです!」


慌ただしく机に向かったコマチの様子に、キララはユメカに困った様に笑いかける。キクチヨが絡めば途端に意見を変える様子が可笑しくて仕方ない。


「そうだ、カッツンも外に出てたよね、お昼ももうすぐだし呼んで来ようか」
「では、私が……」
「うん、お願い」


キララが外に出て行く様子を眺め、カツシロウの事を思う。戦が終わってからというものの、カツシロウは相変わらず修行を続けていた。朝早くから夜遅くまで刀を手放す事は無い。キララと会話することも殆ど無いと言ってよかった。だからといって戦に捕われている危なっかしい様子では無い。今までのカツシロウと違い、落ち着き払っているのだ。それはどこかカンベエを思わせる佇まいで――。


「痛……っ」


ぼーっとしながら包丁を使っていたため、少し指を切ってしまい慌てて指を咥える。


(いけないいけない。皆に指入りのおかず作るところだった…!)


ほんの少しの傷は舐めただけで血が止まる。水で再び洗い、集中して煮しめ作りに専念した。
後は少し煮込めば完成というところまでできた頃、キララがカツシロウと共に帰ってきた。


「キララちゃん、あと煮込むだけだからお鍋お願いしていい?キュウゾウを呼んでくるから」
「はい、分かりました」


外はとても寒いため、一枚羽織って外に出る。雪は留まることを知らず舞い落ち、地面はすでにうっすらと積もりはじめていた。こんな雪の中帰ってくるのは大変じゃないかと、皆のことを考えて森の方を見やる。すると見覚えのある御座船のシルエットが雪の向こうに見えて、目を見開いた。


「ユメカー!!」


船から身を乗り出して手を振るボウガンの姿があり、ユメカは顔を綻ばせて手を振り返す。


「おかえり!!」


近くまできた御座船は止まり、ボウガンは飛び降りてユメカにガバリと抱きつく。


「会いたかったァ!」
「ちょ…!ボーガン!」


抵抗するユメカをお構いなしに抱き締める様子に、後部座席から降り立ったヘイハチが「あーあ」と頬を掻く。


「キュウゾウに殺されても知りませんよ」
「これぐらいスキンシップだろう」


唇を尖らせたボウガンが文句を言いつつ渋々離れる。そして視界に入ったヘイハチにユメカは急いで近寄る。


「ヘイさん!大丈夫?辛くない?」
「ご心配をおかけしまして。この通り、自分の足で立てるまでに回復しましたよ」
「よかった……」


いつものヘイハチの笑顔がそこにあり、ユメカはほっと胸を撫で下ろす。そこで、運転席から降りて来たひとりにも目をやり、パッと目を輝かせる。


「ロクタ!」
「すみません、僕も一緒に来ちゃいました……」


申し訳なさそうに小柄な体を更に縮込ませる様子に、とんでもないと首を横に振る。


「なんで謝るの!大歓迎だよ!今日皆帰ってくる予定だったから料理も沢山用意してるんだ」


途端にヘイハチの笑顔が更に綻ぶ。


「この日がくるのをどんなに待ち侘びたことか。やっとカンナ村の米がたらふく食べられる」
「ヘイさんには沢山食べてもらって、もっともっと元気になってもらわないと!じゃあ、私はキュウゾウを呼んでくるから、先に中に入ってて」


そう言うと急いでキュウゾウの元へと駆け出した。


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