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泉を横切り、仮宿に着いたユメカは戸を叩く。
「キュウゾウ、入るね」
一声掛けて戸を開けば、キュウゾウは刀を手入れしていた。初めて見る姿。どこか張りつめた空気に一瞬息を止める。
キュウゾウは磨いだ刀を垂直に構え、刀身を見つめると鞘に収め振り向いた。
「どうした、中に入れ」
空気が変わり、戸を開けたまま動けずにいたユメカは、キュウゾウの声にハッとして家の中へ入る。
「良い報告があって」
そう言って目の前まできて座ったユメカと、キュウゾウの紅い瞳が交差する。
「さっき手紙が届いてね、ヘイさんが退院して、キクチヨも元気になったって。もうカンナ村に向かってるみたいなの」
キュウゾウが目を閉じる。
「そうか」
その一言に込められたキュウゾウの思いに感づき、ユメカは少し眉尻を下げ、側に置かれた刀を見る。
「その……」
「案ずるな」
研ぎ澄まされた刀の意味。不安げな表情を見せるユメカに、キュウゾウは一言そう言う。
「カンベエと闘うのは、もう変わらないんだよね」
「もとより。そのために奴を待った」
「うん……。でも、先にお祝いしようね。みんなが揃うんだから」
勇気を振り絞って言い、立ち上がる。
「さ!お祝いの準備しないと。沢山お米炊くんだから!あ、でも今日帰ってくるとは限らないのかな……でもいいよね!明日も沢山炊けばいいし。じゃあ、忙しいからまた後でね」
キュウゾウに笑顔を向けたユメカは、家を後にする。しかし少し歩いたところで立ち止まった。
(大丈夫……かな)
心配することはない。そう思いたい。しかし刀身の輝きが目に焼き付き、不安が募る。仲間になったのに何故刀を交えなければならないのか。サムライでないユメカには納得のいく答えが出ない。
(だめだめ!キュウゾウを信じよう)
考えるのをやめるように首を横に振り、再び水分りの社へと戻っていった。