samurai7 | ナノ
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御座船で脱出したユメカ達は、都から上がる煙が幸いにも身を隠す役目となり、野伏せりに気付かれることもなく、都の近くを飛んでいた。


「これからどうします」


操縦しているロクタの問いに、ユメカは都の周りを見ながら迷い無く答える。


「このまま都の近くを飛んでくれないかな。キララちゃん達も此処まで来てるはずだから、合流したい」
「わかりました」


隣に座るボウガンが、身を乗り出し指差す。


「おい、アレじゃねーか?」
「え!」


砂塵で見え辛いが、ボウガンの指差す先には確かに運搬船の様な影が見えた。


「きっとそうだよ!ロクタ、お願い!」
「承知」


ロクタは御座船を操り、目的の影を目指し近付いていく。すると運転するリキチと荷台に乗ったキララとコマチの姿を確認できた。


「キララちゃーん!」


名を呼ばれたキララが驚いて辺りを見回す。コマチもまた今聞こえる筈のない声に驚き声を上げた。


「ユメカちゃんの声です!」


上を飛んでいた御座船を、ロクタは運搬船に併走させるように近付いた。
ユメカの無事な姿を確認できたキララの瞳がみるみるうちに潤んでいく。


「ユメカさん!やはり都に捕われていたのですね…!」
「うん、皆に助けてもらったから脱出できたよ、心配かけてごめんなさい」
「中は……どうなっているのでしょうか。都がカンナ村へ向かっているように見えるのですが……」
「都は制御できなくなってる。皆もまだ戦ってるよ。でも……これからどうなるのか、私にも分からない」
「え……」
「私が知ってる未来と、確実に変わってる。でも、絶対良い方に変わってるよ。カンナ村は大丈夫。皆を信じよう」


キララは握る手に力を込める。そこには紐が千切れ、キララの腕と繋がっていない水分りの水晶があった。戦の最中に恋をし、巫女を捨てた証。
こんな大事な時にカンベエだけを見つめ、只の女になってしまったことにキララは責任を感じていた。ユメカはキララの様子に気付き、微笑む。


「私達、おんなじだね。帰って来て欲しい人がいる」
「……はい」


キララも切なく微笑み返し、頷いた。


「コマチちゃん、もうひと頑張りだよ!」
「はいです!オラ達ずっとお祈りしてるです!みんな帰ってくるって、信じてるです!」
「そうだね」


コマチの腕には、キクチヨの自慢の家系図が大事そうに抱えられていた。


(キクチヨは、どうすればいいんだろう……)


都はウキョウを討っても尚、止まる事はない。そこでキクチヨが身を呈して都を止めようと、斬艦刀を使い都を一刀両断する。しかし熱と爆発で機械の体は溶かされ、形を無くしてしまうのだ。
この未来も絶対に変えなければならない。コマチとキクチヨは、一緒に幸せになってほしいのだから。


「……ボーガン、お願いしてもいい?」
「ああ、何でもするっての」


ニィ、と調子良く口角を上げたボウガンに、ユメカはありがとう、と答える。


「都の制御が効かないから、どうにかして都を解体しないといけないの。カンベエとシチさんも中から解体するから、ボーガンもその時に手伝ってほしい」
「承知。しかし、どのタイミングだ」


聞かれて考える。キクチヨと同じでは、みすみすボウガンも命を落としてしまうことになるかもしれない。しかし、ボウガンが加わることによって何かが変わるかもしれない。もはやどうすればいいのかなんて分からなかった。


「私達が出てきた所からキクチヨも出てくるの。とにかく、そのときには」
「……ああ」


頭上を見上げれば、未だ都を守るように無数の野伏せりが飛び回っている。
ウキョウの命令により、魂を抜かれ只の機械となった野伏せり。「御天主様」と口々に呟き、所在を探す声が聞こえた。ここでは魂の定着によって人が機械になれる。しかし魂を抜かれてしまえば、完全な機械になってしまう。もはや意思の無い機械でありながら主を求める声に、ユメカはやるせない気持ちになり、胸を痛めた。
一方でその声が聞こえているにも関わらず、聞き流している者がいた。


「この船、止まりそうもないねえ」


都の崩壊は免れない。サネオミを従えたウキョウは冷静な様子で瓦礫の積もる廊下を歩いていた。


「は、このままなればカンナ村に激突は必定かと」


サネオミの返事に、ウキョウは頷く。


「じゃあ僕達の勝ちだね。終わり良ければ全て良しだよ」


今回の目的はカンナ村を消すこと。戦のやり方を覚え、真実を知る者達の抹殺だ。それさえ出来れば、今の都が堕ちようが構わなかった。城はまた建てれば良いだけの話なのだ。
今向かっているのは、脱出するための御座船が置いてある船尾だ。都のことを知り尽くしているサネオミの案内もあって、サムライ達に見つからない安全なルートを通っていた。


「あーあ」


角を曲がった所で、ウキョウはつまらないものを見た様な反応を示す。


「みんな死んじゃった」


崩壊した壁に襲われ、息絶えた側女達だった。


「そうだ、ユメカくんは?誰か連れて来てよ。きっと怖い思いをしてるよ」


近衛兵の一人が「恐れながら」と、声を掛ける。


「先程見て参ったのですが、部屋はもぬけの殻でした」
「ふーん。じゃあボウガンは」
「牢のある下層はもう崩壊しており、近付けません」
「あっそ」


興味を無くし、側女達の躯を跨いで進む。程なくして目的の首尾へ辿り着いた。しかし扉を開き、広がった光景に皆が愕然とする。積んでいるはずの無数の船が、全て破壊されていたからだ。


「誰がやったのー……」
「まこと、面妖なことで」
「誰がやったのって聞いてるんだよ!」


サネオミの胸ぐらを掴み、ウキョウが取り乱した時だった。金属同士がぶつかり擦れるような音が上がり、近くの近衛兵が火花を散らし倒れる。ウキョウが悲鳴を上げて振り向けば、近衛兵を斬ったシチロージが視界に入った。しかし反対から向かってくるカツシロウに気付き、胸ぐらを掴んだままのサネオミを咄嗟に盾にした。カツシロウの薙いだ刀は容赦なくサネオミを襲う。


「あ…ああ……!!」


斬られたサネオミを捨てたウキョウは、慌てて他の近衛兵に守って貰おうと駆け出す。しかし目の前にいた近衛兵を物陰から現れたキュウゾウが斬り捨てる。この場に居た最後の一人も、キクチヨが叩き斬った。


「カンベエの言った通りだったな。本物なら逃げ出すってよ」


ウキョウの偽物がいる中、本物を見つけるにはどうするか。どこに居るか分からないのを闇雲に探しても埒が明かない。そう皆が頭を悩ませる中、カンベエは脱出できる場所で待てば良いと策を出したのだ。


「機械のサムライ…!」


刀を向けられ、じりじりと後ろへ下がっていく。

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