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振り向いたテッサイに、閃光の如く近付く影。
「ぐあっ!」
テッサイから苦しい声が漏れ、襲った衝撃から長ドスを握る手に力がこもった。胸に深く刺さったモノ、向かって来た相手を理解し、その力は徐々に抜けていく。
「キュウゾウ…!」
自分と同じ様に商人に仕えてきた者。だがテッサイとは違い、己の生き様を再び取り戻したサムライだった。
「奴は、俺が斬る」
テッサイの耳に届いた僅かな声。
全身から力が抜け、長ドスを手放す。そして間もなく床へと沈んだ。
テッサイの死。突然のことに反応が遅れた都の兵だったが、カツシロウもキュウゾウが現れた場所から突入し、再び鉄砲の乱射へと移る。その弾丸はカツシロウの刀に当たり、衝撃に負けた刀は簡単に折れてしまう。反動でカツシロウは後ろに倒れ、死を覚悟した。
「カツシロウ!」
瞬間、カンベエが動いた。
倒れたカツシロウに照準を合わせた敵の腕を、カンベエは斬り落とす。続けざまに胴を狙い薙ぎ払った。
死を免れ動転しながらうずくまったカツシロウの目の前に、敵の手から離れた銃が落ちた。
自分も応戦するために刀を探し視線が彷徨う。しかし目の前の銃しか武器はなく、藁にも縋る思いでそれに手を伸ばし掴んだ。
カンベエに斬られた兵は倒れた。しかしそのカンベエの背後を別の兵が狙う。残りの兵達も各々動き、遠距離から銃を撃とうとした敵にシチロージは槍を投げ、それを防いだ。キュウゾウは身近な敵を次々斬り捨て、反応の遅れたカンベエに気付き動く。
カツシロウは銃を手に振り向いた。
目前にはカンベエを狙う都の兵。助けなければ、と焦り両手で銃を構えた。
瞬間、光が揺らいだ。
銃を構えた反動で腕に付けられた石が揺れ、視界に入った光だった。
――鉄砲は使わないで。
ユメカとの約束が脳裏に蘇る。鉄砲の引き金を引くことを躊躇い、ぐっと表情が歪む。約束を守れば、カンベエが殺られてしまう。一瞬の迷いのまま敵を見れば、うめき声を上げ敵は倒れた。
「あ……ああ…」
約束の意味を理解し、銃を持つ手が震えた。自分が銃口を向けているのは敵ではなくキュウゾウ。
敵の向こうにキュウゾウが居て、この近距離から引き金を引いていれば、敵と一緒に仲間の命を奪っていたのだろう。
「カツシロウ!」
歯の根が合わなくなっているカツシロウを見て、正気を取り戻させようとカンベエが強く名を呼ぶ。
ハッとしたカツシロウは捨てるように銃を手放した。恐怖で目を見開き、俯く。
「わ、私は……っキュウゾウ殿を…!」
一瞬未来を見た気がした。キュウゾウの体に無数の弾痕、倒れる姿……。
「落ち着け。お主は鉄砲を使っておらぬ」
「……っ、は…い」
キュウゾウも同様に一瞬襲った情景があった。無意識に腹に手を当て、傷の有無を確かめる。そこには当たり前ながら何も無い。
此処で己は死ぬ筈だったのか、と考える。襲った違和感を払うように、二刀に付着した血を払い鞘へ納めた。
「よくぞ戻った、カツシロウ。キュウゾウ、ユメカは居たか」
「いや、脱出したとそいつに聞いた」
「そうか」
ユメカが無事だと分かり、皆の表情に力強さが蘇る。
「やったじゃねーか!キュウタロウ。それで、ヘイの字とゴロのおっさんは会ってねーのか?」
キクチヨの問いに、無言になるキュウゾウだったが、カツシロウがビクリと反応を示した。
「おふたりは、爆発に巻き込まれ、主機関と共に……」
「なんだよ、それ……。死んだのか!?あいつ等死んだのかよ!」
「…………っ」
「なんてこった……」
キクチヨが項垂れ、シチロージは目を伏せる。カツシロウは堪えきれない涙が浮かんだ。
カンベエはその全てを沈着な眼差しで受け止める。また屍を踏み越えるのだ、と。
「これが戦だ。なに、儂等とて長くはない。誰がウキョウの首を獲る」