samurai7 | ナノ
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不安な思いで椅子に腰掛け待っていたユメカは、聞こえてきた微かな足音に、はっと顔を上げた。
走っているような様子からボウガンだと思い、勢いよく立ち上がる。
しかし同時に目の前で開いた扉の先には、息を切らせたロクタが立っていた。


「今から御座船へ向かいます。そこから脱出できるので付いてきて下さい!」
「え、でも、ボーガンはどうしたの?此処に来る筈じゃ……」
「……ボウガン殿は今、ゴーグル男と戦っています。とにかくユメカさんは先に脱出を…!」
「なんでゴーグルと……」


本来ゴーグルはカンナ村に行き、カツシロウに斬られる運命にある。ゴーグルが都に残ったのは、いるはずのないボウガンが此処にいるからなのだろう。
意を決してロクタを見る。


「私、ボーガンの所に行くよ。まだここですることがあるから」


ロクタは驚き、引き止めるようにユメカの両肩を掴んだ。


「駄目です!危険ですから!」
「分かってる…!でもここで逃げたら絶対に後悔する!」


もしもボウガンがゴーグルにやられてしまえば、結局ボウガンの未来は先延ばしになっただけで、変わらなかったことになってしまう。
必死に言ったユメカの言葉を聞き、ロクタが苦しそうに目線を下へと向ける。


「……僕も絶対後悔します。今ユメカさんの思いを聞けば、ボウガン殿の行動を無駄にすることになる。
とにかく、騒ぎが大きくなる前に脱出しなければならないんです。分かって下さい」


ユメカの両肩を掴んだ手に、思いの強さを表すように力が込められた。
ロクタの揺るがない瞳を見て、口を引き結ぶ。無鉄砲に飛び出してしまいそうな気持ちを抑え小さく頷くと、安心したように肩を掴む力は弱まった。


「ありがとうございます。では、付いてきて下さい!」


ロクタは左右を見て、廊下に誰も居ないのを確認すると、ユメカの腕を引き一気に走り出した。
あわせてユメカも必死に走る。


そこで気付く。都は本当に広いのだと。
暫く走り息が切れてきた頃、ロクタが急に立ち止まり、止まりきれなかったユメカは転びそうになるのをこらえる。
ロクタが近くの扉に立つと、その扉は自動で開いた。


「誰か来ます。一旦此処に隠れて……」


ロクタが言い終わる前に、曲がり角から人影が見えたため、問答無用でロクタはユメカを扉の中へと引っ張り込んだ。
扉はすぐに閉まったが、遅かったかもしれない。


「あの物陰に隠れて下さい!」


頷いたユメカは広い部屋の奥にあるオブジェに身を隠す。すると部屋の扉が開かれ、常に連射銃を装備している都の兵が入ってきた。


「おぬし、一体そこで何をしている」


ロクタが物陰の存在を自分の体で隠すように振り返る。


「いえ……すみません。部屋を間違えたみたいで」
「かむろの新入りか?早く都の造りくらい覚えることだな。
どこへ行くつもりだ」
「部屋に戻ろうと思いまして」
「来い。案内しよう」
「そんな、こんな事で貴殿のお手を煩わせる訳には……」
「よい。私も向かう先に用があるのだ」
「……かたじけないです」


会話が終わり、部屋の扉が再び閉まった時には、シンと部屋が静まり返った。完全に人の気配が無くなり、ユメカは恐る恐る立ち上がる。
思った通り、部屋には自分ひとりだけになっていた。


「どうしよう……」


向かっていた御座船は、どこにあるのか分からない。
ロクタが再びここに来るのを待つべきだろう。


そう思っていた時、都全体が振動し、思わず多々良を踏んで身を低くした。


「なに…!?」


都が攻撃されたのだろうか。いや、響くようなひとつの揺れには覚えがあった。
じっと今までいた部屋で、一回だけ体感したのだ。その時も不安だったが、農民とサムライにやられて都へ帰還した野伏せりを、サネオミが主砲で撃った時だったと思えば、今の揺れも主砲を使ったからだと結論付けられる。


きっと近くまで皆が来ている。
ロクタは騒ぎが大きくなる前に、と脱出を促してくれたが、戻って来た頃にはもう此処は戦場になっているだろう。
ならば此処で自分がやりたいことをするまで。


再び心を決め顔を上げると、目に飛び込んできた景色に、ドクンと心臓が鳴り、血の気が引いていく。


「此処……夢で見た場所だ」


轟音の中で目が覚め、なぜ自分が此処に居るのか驚いて此処を飛び出し、皆と合流するが、変わらない未来を見る夢。


でも、違う箇所がある。
今は戦が始まる少し前。ボウガン、ゴーグル、ロクタ――本来此処で関わらない存在が、やはり歯車を狂わせているのだろう。


「急がないと……!」


あの場面を迎える前に、カツシロウに念を押さなければならない。
自分の体を盾にすることは、もう選択しないと決めた。贅沢だと思うが、自分が欠けて皆が無事生還する未来を描くことは、もうできないのだ。


一分一秒でも時間が惜しく、ユメカは部屋を飛び出した。


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11.11.02 tokika

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