samurai7 | ナノ
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癒しの里の通りを歩くキュウゾウが、突然歩みを止めた。


「なんじゃ、何が見える」


遠くを見るキュウゾウに、傍にいるアヤマロが問いかける。キュウゾウの視線の先には、カツシロウの後姿があった。
やはり蛍屋に来ていた。そう思ったキュウゾウだったがアヤマロに対し何も返さない。そして視線を路地へと向ける。何も無い路地だったが、引き込まれるような胸騒ぎを感じ、暫し眺めた。


目立つ行動をウキョウは見逃さないだろう。早く合流した方が得策、そうキュウゾウは思い蛍屋を目指し走り出した。置いていかれると慌てたアヤマロは、息を荒げながら必死になって付いて行った。


蛍屋の前まで来ると、思った通り、かつて虹雅峡で仕えていた機械兵数名が、蛍屋の庭へ忍び込んでいる所。キュウゾウは背の刀を鞘から抜くと、機械兵に向かっていく。


「…ッ!キュウゾウ!」


機械兵が気付いた時はもう遅く、キュウゾウにバラバラに斬り捨てられていく。
そこで加勢が入ったのにキュウゾウは気付いた。翻る白い衣――カンベエだった。


「うらうらうらうらうらあ!キクチヨ見参!……ありゃ?」


キクチヨが新調した新しい太刀を振り回しながら駆けつけたときにはもう、全てが終わった後。


「一足遅かったな」


カンベエの言葉に言い返してやろうとキクチヨが構えたが、視線の先に予想外の人物を捉え驚く。


「お!おめぇは!」
「よく、来てくれたな」


カンベエの歓迎する言葉に、誤解するなと言いたげにキュウゾウは口を開いた。


「こいつ等はお前を消しにかかった。故に斬った」
「へえ、そりゃありがてーや!お前も何だかんだ言って、カンナ村が気になってたんだなあ!」


まるで自分が良い人のように称されることに異論があったキュウゾウは、キクチヨに対しつい反応を返す。


「誤解するな。俺は仕事が終わるのを待っているだけだ」
「可愛くねえ奴!」
「……気をつけろ。これもウキョウの差し金だ」


視線を動かす。キュウゾウの視線の先を見れば、隠れているつもりなのか、アヤマロが木の幹の向こう側で様子を伺っていた。


「おー!なんだあ?米蔵のおっさんじゃねーか!」


隠れきれていない体型と姿に見覚えがあったキクチヨが驚いた。都に乗り込んだ時に御蔵番として働いているアヤマロと出会っていたからだ。アヤマロもいつの間にか自分に皆の目が向いていることに気付き、恐る恐る顔を覗かせるのだった。


結局アヤマロを連れ、カンベエ一行は蛍屋へ戻った。振舞うように食事を用意し早速カンベエは問いかける。


「ウキョウは何を企んでおる」


ウキョウの親である男。得られる情報は無理やりにでも絞り取るつもりでいたが、アヤマロは素直に語る気なのか、間も空けずに意気揚々と語り始めた。


「街の前でそちの処刑を見世物にしようとしたのも、女達を解放してみせたのも、全てウキョウが天下を操らんがためじゃ」
「操る……」
「左様。商いは表と裏を使い分け、虚と実とを読みあうものじゃ。ウキョウは虹雅峡では人のためにと表の顔を見せ、裏では邪魔な者を始末に掛かっておる」


つまり、まだ終わってはいないということ。
ウキョウは「カンナ村にはもう行かない」と言っていたが、アヤマロ曰く、カンベエに語ったことは全て嘘。カンナ村は今だ危険に晒されていると言えた。


「まだ仕事が残っている……」


縁側で静かに耳を傾けていたキュウゾウの言葉に、カンベエが振り向く。


「そのようだ。……待たせるな、済まぬ」


キュウゾウが視線を合わせ、立ち上がる。近くに居たキララを見た。


「ユメカは」
「えっ、そういえば……先程からお姿を見ていません」


はっとキララが周りを見回す。つい先ほどキララも帰り、女性達が眠る部屋の様子も見てきたが、そこにユメカの姿は無かった。
キュウゾウの眉間に皺が寄る。新たに茶の用意をしてきたユキノがその会話を聞き、初見のキュウゾウへと顔を向けた。


「ユメカさんだったら、カツシロウさんを追いかけたきり帰ってきてないわね」
「え?ユメカさんもカツシロウ様を?」
「ええ、キララさんが追い掛けた後、彼女と、あと目立つ殿方が一緒に」


キュウゾウは視線を落とす。左手にある薬指へと。
誰も居ない路地を見た時に感じた違和感は、引き寄せられるかのような感覚だった。
まるで手を引かれるような感じに、ユメカの顔が一瞬浮かんだのは気のせいでは無かった。


「私、探してきます…!」


キララが踵を返そうとしたところを、キュウゾウは「待て」と引き止めた。


「もう遅い」
「な……!探してみないと分かりません!もしかしたら近くにいるかも……」
「おらぬ」


キュウゾウは赤い宝石を見ていた。その瞬間、キララは指輪に嵌められた宝石の力を思い出す。互いを引き寄せる、運命の赤い糸。キュウゾウには分かったのだ、今近くにユメカは居ないと。


「……そんな」
「案ずるな。奴も付いていたのだろう」


奴とはボウガンのこと。強いとは言えないが、対峙した時にユメカに対する態度を見て、キュウゾウもまた感じていた。ユメカを思っている、と。
ボウガンを信頼している訳では決して無いが、ユメカの護りに付くのは明白だった。


「今は態勢を整え、一刻も早く都に行くのが先決だ」


キララは目を伏せ、頷いた。
ユキノはキュウゾウを見て、目元を緩める。以前ユメカは、思いを寄せる相手は、此処にいるサムライでは無いと言っていた。
冷静に、落ち着き払っているように見える目の前の男。しかしユキノにはユメカのことを一番に案じ、心配しているように見えた。
助けたい、そのために感情を秘め、冷静でいる。


彼なのだろう。



――素敵な方じゃない、ユメカさん。
どうか無事でいて、この戦が終われば

……きっと幸せになれるから



ユキノは願うように、丸い月を見上げた。


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11.03.22 tokika

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