samurai7 | ナノ
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「色々黙っていたことは、本当にごめんなさい」
「…………」
「だけど、カツシロウの存在が、私達には必要なの」


私達、と言う言葉にカツシロウは目を伏せて嘲笑した。


「聞いて笑わせる。これまで私が役に立ったことなど無いではないか。今回のことも結局無駄足だった。こうなることも知っていたのではないか。
……カンベエ殿がいるのだ、全てあの方にお任せするといい」
「カンベエはカツシロウじゃない。だから無理だよ」


カツシロウは冷たく濁った目をユメカへようやく向ける。その一言が方便なのかを確かめるために。するとユメカの真っ直ぐ向けてくる瞳と合い、一瞬気圧される。


「カツシロウ、お願い。今からカンナ村に行って」
「……何故。村の戦は終わったでは無いか」
「まだだよ。今度の敵は大きい。天主になったウキョウが、カンナ村を消しに来る」
「ならば、ゴロベエ殿とシチロージ殿とヘイハチ殿が村に残っている。なんとかしてくれるだろう」
「駄目……彼等は今、こっちに向かってきてるから」


ゴロベエがどうするかまでは正直分からない。しかし、リキチと約束していた彼は、サナエに一刻も早く逢わせるために、カンナ村に残るとは思えなかった。
ゴロベエの墓が無い限り、カツシロウは村に戻る意思を持たないだろう。ゴロベエが生きた時点でそう言えた。だがカツシロウが戻らなければ、村が大変なことになってしまう。


「……放してくれ」


カツシロウの言葉に、ユメカは視線を落とし掴む手の力を緩めた。振り払うことも出来ただろうに、そうしなかったのは何故か。ユメカの手から開放されたカツシロウは、何も言わずに去っていく。


「カッツン、お願い。約束は忘れないで……」


以前交わした、鉄砲を使わない約束。しかしその言葉は遠くなったカツシロウの耳には届かないほど小さい声だった。


「ユメカ、戻ろう」


事の成り行きを離れた所でただ見守っていたボウガンは、ユメカへ声をかけながら近寄る。


「うん、そう……」


振り向こうとしていたユメカ。しかし闇から飛び出た布を持つ手に口元を覆われ、一瞬で意識を手放した。


「……てめェ!ゴーグル!」
「おっとお!その腕を下ろしな」


ボウガンが即座に仕込みボーガンを向けたが、ユメカの身を抱えたゴーグルがせせら笑う。


「この娘が斬り刻まれるところが見たく無いんだったら、大人しくするんだな」
「……ックソが」
「はは、そう挑発するな。お前にも来てもらうから安心しろ。若様、いや、今や世界を統べる御天主様がお呼びだ」


ボウガンの瞳孔が開く。


「俺に用があるならば付いて行く。そのかわりユメカは置いていけ」
「調子に乗るんじゃねーよ。若様は娘が必要。お前はオマケだ。有り難く思えよ、一緒に連れてってやるってんだからな」


舌打ちしたボウガンがユメカを見た。
捨て置かれるよりは、連れて助け出せることができるかもしれない可能性を取るべきだ。ゴーグルはいつでもウキョウへ掌を返すことができる。だから下手をしたらこの男の気まぐれで、今ユメカの命を奪う可能性は充分ありえた。


「……丁重に扱え。若は娘の扱いには煩いぞ」
「ふん、知っているさ、そんなこと。……こっちだ」


隙を見せないゴーグルの後姿を睨み、ボウガンは後を追った。

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