samurai7 | ナノ
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頭に響く痛みで、ユメカは意識を取り戻した。重い瞼を押し上げ、辺りを探るように視線を動かせば、自分の状況を把握した。ウキョウがいたからだ。また、同じ手でしてやられたのだ、と唇を噛み締めた。


「やあ、気分はどう?」
「…………」
「良いわけないか。これで薬嗅がされるの2度目だもんね」


屈託の無い笑みを浮かべる様子に、ユメカは眉間に皺を寄せ、頭痛を堪えながらベッドから起き上がった。


「なんで……私を連れてきたの」
「第一夫人にするためだよ。前に夫人候補って言ったと思うけど、すべてうまくいったから、君が一番って決めたんだよね〜」


ウキョウの言葉にどこかひっかかりを覚え、感情の読めない青い瞳に視線を合わせた。


(すべて、うまくいった……?)


「君は3日眠ってたんだ。その間に世界は変わったんだ、色々とね」
「な……!」


3日も寝ていたということは、全てが終わってしまったことになる。あまりの衝撃に、心臓が暴れだし、瞳に熱い物が込み上げる。


「う、嘘…!じゃあ皆はどうなったの!?カンナ村を潰したっていうの!?」


(キュウゾウは……!)


自分が中途半端に干渉したことで、変えようとしていた運命は変わったというのか。最悪な、望んでいない形へ。しかも、寝ている間に。
信じられない思いで胸が張り裂けそうになる。そこに、ウキョウの笑い声が響いた。


「凄いね〜本当に知ってるんだ」
「……え」


羽織っている着物からウキョウは刺繍の施されたハンカチを取り出し、ユメカの頬を伝う涙を優しく拭う。ユメカはその様子をどこか他人事のように感じ、ウキョウを瞳に映した。


「3日経ったっていうのはウソだよ。カンナ村はこれから不幸な事故が起こるところ、かな」


探られていたことを理解したユメカは口を噤み、ウキョウを睨み据える。


「嘘をついたのは謝るよ。ユメカくんが未来を読む巫女ってことを確かめたかったんだ」
「未来なんて、知らない」
「残念だけど、さっきのは知ってないとできない反応だったよ。ユメカくん、ひとつ取引きとしないかい?」


人差し指をぴんと立て、無邪気な様子で笑顔を向ける。しかし、瞳の奥は深い闇が蠢いているようでユメカは恐ろしくなり、目を逸らした。


「君が僕にこれからの未来を話す。変わりに、僕は君の望みを叶えてあげるよ」
「……望みって、なんでも良いの?」
「勿論!それこそ、これからカンナ村で起こる不幸を無くすってのでもね。僕は天主だから、出来ないことは無いんだ」


目を閉じ、ウキョウの言葉を反芻する。考えるまでもなかったユメカは、すぐにウキョウを見返した。


「交渉決裂だよ」
「そっか、残念だな〜」


ちっとも残念に思っていない様子でウキョウは椅子から立ち上がり、部屋を出て行こうとする。そこで初めてユメカは部屋の片隅にテッサイが控えていたことに気付いた。


「ウキョウ、ねえ、何でなの。サムライとアキンドと農民が仲良くすることは出来ないの?」


振り返ったウキョウに、一瞬笑みが消えていたのを捉える。しかしまたすぐに口角はつり上がっていた。


「相容れないよね〜。でも、今に平和な世になるよ。僕が天主になったんだ、戦の火種は全部消すつもりだからね」
「それって単純に、自分の邪魔者は消すってことでしょ」
「あはははは!よいね〜知ってるね〜。そうなっちゃうけど、結果平和な世が来るんだから。農民はこれまで通り土を耕して、都はもっと大きくなるよ。サムライは都を守る用心棒になるかな。それ以外はいらないや」
「なんで……そんな風にみんなの上に立って、ウキョウはどうしたいの?」
「さあ、どうしたいんだろう。立ちたいだけかもしれないね」


どこまで本当で、嘘なのか。ウキョウは今度こそ部屋を出て行こうとする。


「最後に聞かせて。一緒に居たボウガンは……どうしたの?」
「知らないよ。僕はユメカくんを連れてきたかっただけだから」


ウキョウの言葉を聞き、ユメカはベッドに目線を落とした。信用のできない言葉を聞いて、自分はどうしたいのか。機械の扉を出て行くウキョウとテッサイを、もう呼び止めることはしなかった。
部屋を出てすぐ、テッサイが口を開く。


「御天主様、娘をどのようになさるおつもりです」
「どうもこうも〜片付くまで此処に居てもらわないと。手出しされちゃ困るし」
「利用なさらないので?」
「分かってないな〜テッサイは。ユメカくんが未来を知りながら関わってくる理由は何!」
「……っ」
「知ってる未来を変えたいからだよ。つまり、ユメカくんが知る未来は僕達にとって悪いようにはならない」
「成る程……」
「ま、念には念を入れて下手に扱わない方が良いね。ボウガンもちゃんと牢に入れててよね。油断ならないから」
「承知しております」


通路を歩いていると、サネオミがウキョウの元へ近寄った。


「東の方角より、負傷した雷電とタノモが此方へ向かっておりまする」
「よいね、うまくいってるねぇ。どれくらい負傷してるのー?」
「やっとのことで動いているようであらしゃります。いかがいたしましょう」
「ぷっ、だっさいねー!手当てしてあげないと。御典医を用意しといて。デッキに上がって帰還を迎えてあげようじゃない」


サネオミは了承の返事を返し、下がっていく。ウキョウの愉快そうな横顔を眺め、テッサイはその目に影を落とした。

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