samurai7 | ナノ
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カンナ村の様子が虹雅峡に伝えられた。視察に行っていたウキョウのサイボーグ用心棒のひとり、ゴーグル男がモヒカン男と入れ替えに報告に戻ってきたのだ。
今虹雅峡にアヤマロは不在。御勅使殺害の事件により、都に召還されたのだった。現在虹雅峡を統べるのは子であるウキョウ。
しかしウキョウといえば、自分の部屋で御側女衆と楽しく花札で遊んでいた。


テッサイが近くに控え、ゴーグルから受けた報告書を読み上げる。
カンナ村で野伏せりと農民の戦が始まったことと、その現状についてのものだった。女の鈴の鳴るような声とウキョウの笑い声が上がる中、真剣な表情で報告する様子はなんとも哀れ。しかし聞いていないようで、ウキョウはテッサイの報告が終わるとにこやかに顔を上げた。


「へ〜。キララくん凄いねぇ、サムライ達も集めて、もう戦始めちゃったなんて」
「追跡したヒョーゴキュウゾウもその後連絡を絶っていますが、砂漠にて墓を発見暴きましたところ、ヒョーゴの骸が」
「墓、暴いたの?大胆なことするねえ!」


他愛も無い話でもするように、楽しそうに相槌を打つウキョウ。テッサイは言葉を続ける。


「斬り口から察するにかなりの手練。キュウゾウの行方は今もって不明故、よもや……ということも」
「父上には?」
「まだ……」
「内緒にしといてぇ。ああ、サムライ狩りも、もうやんなくていいから」


テッサイが困惑しながら「御意」と頭を下げた。主は何を考えているのか。笑みは崩れることが無い。


「キララくん、生きてるんだね〜。あ、そうだ。ユメカくんはぁ?」
「謎の娘……報告は受けておりませんが」
「もー使えないなあ。ま、いいや。追って知らせてよ。勿論、カンナ村のことは全部僕に教えてほしいよねぇ」


頬杖をつき、口元がにやりと歪んだ。


「見ててごらん、天地がひっくり返るようなことが、起ころうとしているんだからねぇ」















虹雅峡の街は今日も人々が行き交い、賑やかだ。そんな中目立つ影が、建物から張り出した鉄柱に座り込んでいた。ここからだと虹雅峡中が見渡せる。
時折強く吹く風にピンクの髪を乱されながら、心此処にあらずといった様子で頬杖をつき、男は眼下を眺めていた。


「よォ、ボーガン」


その時、名を呼ばれた。声の主が誰であるかすぐに検討がついたボウガンは顔をしかめ、にやにやと笑う男を視界に入れた。
建物の張り出した屋根に立ち黒の衣をまとった男。ボウガンは何も言わず、つまらなそうにまた眼下へと視線を戻す。


「なんだ。今帰ったってのに、挨拶もくれないのか」
「はっ、俺達そんなに馴れ合ってねーだろ」
「それはそれは、とんだご挨拶だ。せっかくカンナ村より面白い報告を持ち帰ったというのに」
「…………」


ボウガンが怪訝そうに目を細め、再びゴーグルを見た。自分に何を言うつもりでいるのか。
ゴーグルはやはり気になるようだな、と笑みを深くする。


「ユメカ、といったか」
「っ!?」


ボウガンが目を見開いた。そして直ぐに眉間に皺を寄せ、ゴーグルが居る屋根へと飛び移った。


「おい、おっさん。何故その名を知っている」


見事なまでに食いついてきた様が面白かったのか、ゴーグルは肩を震わせて笑いだした。ボウガンはますます睨み上げる。
左腕に力が篭った様子が見え、ゴーグルはとりあえず笑いを止めた。


「大したことじゃない。お前が仲良くしてるのを見て知っただけのこと」
「…………」


それはいつのことだ。しかし聞いたところでこの男は言わないだろう。自分勝手な奴だ。
それならば、言いに来たことを聞くのみ。


「報告とは何だ」
「くっ、なあに、そう焦るな。ほんの些細な悪戯をしてきただけだ」
「悪戯……だと」
「ああ。ま、あの娘の成長を促しただけの結果になっただろうがなぁ」


意味が分からず、ボウガンはじっと睨む。


「あの娘、俺が送り込んだ一体の野伏せりを殺しやがった」
「……!」


ガシャリと音を立てた左腕。と同時に、むき出しになった腕をゴーグルの鉤爪が押さえ込んだ。


「そう、熱くなるな」
「……そんなこと、若が知ったらどうなるか」


下手をしたらユメカは死んでしまっていたかもしれない。


「知らないねぇ。俺は別に忠誠を誓ったつもりは無い。仕事をこなし、与えられた舞台を楽しむだけのこと」
「……っ」


こいつに何か言ったところで無駄。そう判断したボウガンは腕を下ろした。ゴーグルはくつくつと喉の奥で笑い、ボウガンの耳元に口を寄せる。息がかかり、不快にボウガンは眉をひそめた。


「お互い楽しもうじゃないか。これから若は素晴らしい舞台を用意してくれるだろう」


そう言い残し、ゴーグルはその場を去っていった。
残されたボウガンは不快な声を拭うように、口を寄せられた付近の髪をかき乱した。


「あの野郎……」


(何が舞台だ。気味悪ィ趣味もってんじゃねーよ)


ゴーグルのせいでユメカは殺しをしてしまった。物思いにふければ気になっていた存在。今頃どうしているのか、と心配からより一層強くなる。
腰に付けた紅梅色の花を見下ろし、ボウガンは思い出した。


――次出逢った時こそは、俺の好きなようにする


ユメカに言った言葉。それにユメカは頷いた。
今自分に科せられた任務は無い。自由に行動したところで何も問題は無いはずだが、若が何を考えているのか計りかねる。しかし自分が若の考えを読もうとしたところで答えなんて出るわけがない、と早々にに思考を止めた。


此処で無駄に時間を潰すくらいならば……。


ボウガンは女物の着物を風になびかせ、立ち去った。

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