samurai7 | ナノ
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振り向けばシチロージとゴロベエの姿。シチロージは片手に盆を持ち、その上に湯気の上がるふたつのどんぶりを乗せていた。


「シチさんゴロさん!もしかしてそれって」


殆ど汁だけのどんぶりを指差したユメカに、シチロージが頷いてみせた。


「ホタルメシ、サムライの水杯でげす。昨日渡し損ねたんでね、ヘイさん」
「あー、そうでしたね。いただきましょう」


ひとつを受け取ったヘイハチを見て、ユメカも残ったもうひとつのホタルメシへと手を伸ばす。するとシチロージが待ったをかけた。


「そっちはキュウさんのぶんでさ」
「え!私のは無いの?」
「一応サムライの水杯ですから。食べたいでげすか?」
「うん。だって私、まだ一度も食べたこと無い」


キララ達と出会ってから、協力する御礼に白いお米を振舞われていたユメカ。一度もホタルメシを食べたことは無く、味を知らなかった。
それで自分も仲間と言うにはいささか都合が良い気がする。


「ならば持って来よう。こっちをキュウさんに渡しておいてくださいな」


お盆を渡され、受け取ったユメカは頷く。離れていくシチロージからゴロベエに視線を向けた。


「ゴロさんはもう食べた?」
「先程な。実に美味だったぞ」
「美味!?……それ本当?」


疑いの眼差しを向けるユメカに、ゴロベエは頬の傷を歪め笑って見せた。


「農民の労苦の味だ。実に味わい深いと某は思う」
「なるほど。……ヘイさん?」


ホタルメシをひとすすりしたヘイハチがこほっと咳き込んだため声をかければ、ヘイハチは声を渋らせながら顔を上げる。


「美味い米を作っている者達がこれを食べなければならないなんて、道理がなっていませんね」


それ以上ホタルメシに口をつけないヘイハチを見て、ゴロベエが追い討ちをかけた。


「ヘイさんは米が好きでしたな」
「いかにも」
「では全部食べなければなるまい。少しの米粒も入っている。底に沈んだものもあるぞ」
「う……そうですか。いや、参りましたね」


途端、必死に箸で底をかき回して米粒を探すヘイハチに、思わずゴロベエとユメカは笑みがこぼれた。


「じゃあ、私はキュウゾウにホタルメシを渡してくるね」
「某もそろそろ持ち場に戻るとしよう」


きっと今頃最後の弓の稽古をキュウゾウは農民達にしているはずだ。ゴロベエも途中まで同じ方向に行くため、一緒にヘイハチの持ち場を後にした。
少し離れたところで、ゴロベエが「そうだ、ユメカに尋ねたいことがある」と話を持ち出した。


「尋ねたいこと?」
「うむ。都のことだ」
「都……」
「お主は先日、戦は野伏せりだけが相手では無いと言った。リキチの女房が都にいることも分かった。つまり、都が絡んでくることになるのではと思ってな」
「うん、確かに都が敵になる。でも主犯はウキョウだよ」
「なに?ウキョウ……只の虹雅峡差配の息子であったはずだが」


ユメカがどう説明して良いのか悩み、眉根を寄せた。ウキョウはアヤマロの息子ということになっているが、もとは農民の出で、しかも天主の息子、もといクローンで……。


「ごめん、説明するのは難しいんだけど、ウキョウが天主の座を乗っ取って、カンナ村を潰しにかかるから戦うことになるんだ」
「なんと、飛躍するものだな……。して、都とはどのようなところだ?某、噂でしか都を知らんのだ。戦後間も無く出来たアキンドの城、ということしかな。どこにあるかも知らぬ故」
「どこにあるか……か。私も正確な位置までは分からない。ただ言えるのは、動いてるってこと」
「動く?」
「うん、えっと、名前は忘れちゃったんだけど、大戦の時にカンベエ達がいた北軍の一番大きい船?戦艦って言うべきかな。それを改造したものだったと思う」


ゴロベエが目を見開いた。畏怖していた敵の戦艦が、今は都として扱われているのか。
みるみるうちに表情へ影が落ちる。


「惨いな」


戦艦はサムライの誇りだった。それがアキンドによって見る影を無くし、都となっているのか。ゴロベエが黙り込むと、ユメカは立ち止まった。気付いたゴロベエが振り返る。


「ゴロさん、サナエさんを助けに、リキチさんと都に行くんだよね?」
「さすが、よく分かっているな」


その一言でゴロベエが穏やかな表情へと戻ったが、ユメカは足元をじっとみつめる。やがて意を決し顔を上げた。


「じゃあ次に野伏せりと戦ったとき、紅蜘蛛の銃に気を付けて」
「紅蜘蛛の、銃とな?」
「お願いだから、斬らずにかわして欲しい」


的確な願いに、ゴロベエが押し黙った。
銃をかわす。命の駆け引きの瞬間を楽しむ自分に、かわすという選択が自らに無いのは事実。故にユメカがお願いするのか。
ということは……。


「そうか。ユメカの知る未来には、某は都に行けていないのだな」


ユメカが唇を噛み締め、頷いた。


「そうか……」


暫く間を置き、ゴロベエがユメカに近付いた。


「助言真に痛み入る。誓おう、紅蜘蛛の銃弾を避けると」


すんなりと返って来た望んだ言葉に、ユメカは一瞬信じられずゴロベエを凝視した。
するとゴロベエは軽快に笑ってみせた。


「リキチと約束したからな。死んでしまっては守る事が叶わぬ」
「……!ありがとう」
「礼を言うのは某の方だ。これ以上期待を裏切るのはごめんだからな」
「これ以上?」
「こちらのことだ。さて、そろそろキュウゾウ殿のもとに行かねば、ホタルメシが冷えて更に不味くなるぞ」


ゴロベエの言葉に、ユメカがぽかんと口を開けた。


「更に不味くなるって……」
「おおっと!しまった。気概を思えば美味かったが、味が不味いのは確かでな!」


そう言ってゴロベエはいつも通り、豪快に笑ってみせた。

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