samurai7 | ナノ
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日が傾き、景色が茜色へと染まった頃。つばさ岩の下に人影ができていた。
農民達が虹雅峡へ向かう時に通った、緑深い山道を通って此処へと辿りついた組。
カンベエ、カツシロウ、キクチヨ、コマチだ。


カツシロウが「他の組はまだのようですね」と言ったことで、
「カツの字、ま〜た姉さまのこと心配してるですか?」と、キクチヨの肩に乗ったコマチが答える。
「違うというのに!」と、ムキになって答える様子から、
恋愛話でカツシロウはからかわれ、平和にここまで来れたことが伺える。


その時、不気味なまでのオネエ言葉が響き渡った。


「おまちぃ〜!旅一座、只今到着ぅ」


ばあ!と勢い良く次の組が現れた。
ゴロベエ、ヘイハチ、リキチ……。
しかしどれも普段の姿とかけ離れていた。
顔に濃い化粧を施し、色とりどりの髪。女の姿。
その姿にノリノリなのはゴロベエとヘイハチで、リキチは半べそだ。
こちらは街道の道を通ったため、賑やかな珍道中だったらしい。


カツシロウ達が信じられないものを見た風に固まる。
しかしキクチヨは「なんで〜お前ら。似合うじゃねーかぁ」と面白がる。
その様子に「キクの字はもう!女ならなんでも良いですか!?」と、浮気する夫に向かって言うかのように、
小さいお嫁さん、もといコマチが怒った。


残るはもう一組。


不安になったカツシロウが「私が探しに行って参ります」と、踵を返した。
しかしその視線の先にシチロージの姿があったため、驚きの表情を浮かべる。


「シチロージ殿!おひとりか?」
「いやいや。ちょっと早めに到着してしまってな」


そう言うや、こっちを見てみなさいという風に、
顎でくいと死角になっている大きな岩の向こうを指す。
皆がそっと近付き、あっと反応した。


平たい岩に腰掛けているキュウゾウとキララ。
犬猿の仲と例えても良い程のふたりだったはずだが、比較的近い位置に座っていた。
キララがキュウゾウの破れた赤い上着を繕い終わり、キュウゾウに向き直る。


「危ないところをありがとうございました」


キララが丁寧にお礼を良い、上着を差し出す。
キュウゾウが受け取った。


「かたじけない」


誰が見てもぐっと縮まったふたりの距離。
その様子を見ている者達がそれぞれの反応を見せた。
キクチヨは「ややややや〜!」と面白がり、カツシロウは「キララ殿……」と若干悲しんでいる様子。
そして、そこに忍び足で近付く影。


死角から覗いている者達を、更に反対の岩陰から伺っていたユメカだった。
キュウゾウの手当てが終わったため、驚かそうと企んでいたのだ。
一番近くの女装姿のヘイハチに、どんと手を突いて「わっ!」と大きな声を出した。


「おわっ!?」


ヘイハチが驚いて前のめりになり、皆が雪崩れのように態勢を崩していく。
それによって皆が見ていたことに気付いたキララがこちらに近付いた。


「皆さんお集まりでしたか」
「う、うむ……」


一番前にいたカツシロウが、キクチヨに圧し掛けられた形になっていたため、情けなく返事を返す。
一方ヘイハチは眉尻を下げて後ろを振り向いた。


「もー驚かすなんて酷いじゃないですか」
「えへへ〜」


余りにうまくいったため、満足そうにユメカは胸を張る。
そしてヘイハチをまじまじと見た。


普段の着膨れたヘイハチからは想像できない、洋服で露になった本来の細い腰。
可愛い女の子としか思えず、ユメカはたまらず抱きついた。


「エミちゃん可愛いっ!」
「おっと!
……ユメカの変装で学んだことが役に立ちましたよ」


苦笑いという風にヘイハチが頬をかく。
するとゴロベエが「ユメカちゃん!」と未だにノリノリの声音で呼んだため、ユメカはぞくりと肩を揺らした。


「一番にあたしを褒めるべきではなくってぇ?
見てこのたわわな胸!ほれ、気持ち良いわよ〜いらっしゃ〜い」


振り向いたユメカは顔を引きつらせた。
普段のゴロベエの褐色の肌が真っ白になっていて、これでもかという程真っ赤な厚い口紅。
どこもかしこも濃い印象で、とても可愛いや綺麗とは形容し難い。


「あーー……」
「ゴロ姐さん、ユメカちゃんが怖がってるわぁ」


途端にヘイハチがノリノリに言葉を返して、ユメカは渡さないとでもいう風に腕を回す。


「まあ!失礼しちゃう!!じゃああたしは色男のシチさんでいいわ!」
「なっ…!ゴロさん勘弁してくださいよ」


濃い現場にシチロージが引きつった笑顔を浮かべ、カンベエは小さく笑み、キュウゾウは視線も向けない。


個性的で楽しい皆。
和気藹々とした空気に浸ったユメカは、満面の笑みを浮かべた。


これからカンナ村へ。


→第十五話へ
09.03.13 tokika

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