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暫く歩いた所で、道がふたつに別れていた。
どちらを行くべきか。キララが振り子で村へ続く地下水を調べる。
「水脈は両方に通じています。
どちらを選んでも村へは辿り着けます」
そうキララが言う間に、キュウゾウが右の道を選び前を歩き出す。
キララが不満の表情を露にさせた。
「っ勝手な……」
シチロージが「まあまあ」と宥める。
しかしキララの怒りは収まらない。
「陰鬱に押し黙り、勝手な真似ばかり。
これでは到底分かり合うことなんてできません」
瞬間、歩いていたキュウゾウが岩壁に身を寄せた。
不自然な様子に緊張が走る。
「来る」
キュウゾウが声を発した時、目の前に砂塵が上がった。
地面から球形の物体が姿を表す。
機械の目のようなものが此方を捉えた。
キュウゾウが一瞬にして二刀を抜き、そちらに駆ける。
跳躍の勢いをつけ球体に刀を振り下ろすが、球体はふたつに別れそれを避けた。
球体から機械の手足が伸び、たちまち形を現す。
兎跳兎[とびと]と呼ばれる機械のサムライ。
二対で敵を錯乱させ、動きが俊敏だ。
ひとりが攻め、もうひとりが守りに徹するには相手が悪い。
「まずい。キララ殿とユメカは岩陰に隠れて…!」
シチロージに言われ、岩陰に急いで向かう。
未来を案じたユメカがキララの手を引き、キララが隠れようとした岩場よりも離れた場所へと連れて行った。
槍を構えたシチロージが、キュウゾウとは別の一体を相手にする。
その間にもキュウゾウは兎跳兎の腕を斬りおとす。
目のようなレンズから発される光線も避け、
続けざまに脚を斬り払おうとした。
しかし兎跳兎は見切り、脚を身体に収納し宙へと飛び上がった。
キュウゾウから離れた位置へと着地する。
そこは、ユメカとキララが身を隠している岩の上だった。
(なんで…!!)
キララが隠れようとした場所を避けたのに。
ユメカがそう思った時、兎跳兎のレンズがキララとユメカに向いた。
確かめるようにレンズが動く。
瞬間、その首が飛んだ。キュウゾウによる攻撃たっだ。
兎跳兎の頭が地に落ち転がる。
終わったと思えた戦い。しかしレンズがキララ達を向き、怪しい光を放った。
「――!」
刀で跳ね返すのは間に合わない。
そう判断したキュウゾウがふたりの前へと身を挺した。
兎跳兎のレンズから発射された光線は、キュウゾウの左腕を貫く。
「……っ!」
キュウゾウの衣が裂け、鮮血が飛び散った。
しかし受けた攻撃による損傷に目を向けることなく、
キュウゾウは次の光線を放たぬよう刀を兎跳兎の頭に突き立てる。
レンズから光が消えうせた。
その頃にはシチロージも、もう一体の兎跳兎を真っ二つに斬っていた。大きな爆発が起こる。
キュウゾウが刀を鞘へと納めた。
その動作をキララは心が痛む気持ちで見つめる。
「怪我を……」
「いずれこうなることを感じていた。だからあの時片付けようとした。
それがキュウゾウ殿の気遣いですか」
戻ってきたシチロージに問われるが、キュウゾウは何も言わない。
裂けた衣服から血が滲み、痛々しく映る。
しかし表情を見れば怪我などしていないかのように無表情だった。
キュウゾウが歩き出す。
「待って…!手当てしないと」
ユメカがキュウゾウに掛けた言葉。
キュウゾウは振り向かずに口を開いた。
「村へ向かうのが先決だ」
「…………」
ユメカが不安げに見つめる。一方キララは自分を責めた。
(キュウゾウ様は――私達の村を救って下さるおサムライ様。
他のおサムライ様と、何も変わりはしない……)
この人も仲間なのだ。
歩み寄れなかったのは、何かと理由を付けて理解することを無意識に拒んでいた自分のせいだったと、キララは思った。
「キュウゾウ様!」
キララに名を呼ばれ、キュウゾウが立ち止まる。
キララは唯一のわだかまりを消し去ろうとその背中に問うた。
「キュウゾウ様は何故、カンベエ様を討ちたいと思われたのでしょうか」
「……サムライ、故」
「…………」
キララには理解できない答え。
――サムライ。
彼は何を持ってして、サムライと答えるのか。
これまでと違い、キララは素直にキュウゾウの言葉を受け止めていた。