samurai7 | ナノ
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「ユメカ」


抑揚の無いキュウゾウの声に初めて紡がれた自分の名前。
ユメカの心臓が跳ね上がる。


「何故……俺の名を知っていた」
「……え。名前…?」
「初めて会った、戦場」


キュウゾウの言葉を脳内で反復しながらユメカは記憶を思い起こす。
名を言ってしまっただろうか。記憶に無い。


「気の……せいじゃない…かな」


どう答えていいのか困り、ユメカは目を泳がせた。
キュウゾウが目を細める。
不意に手を伸ばし、ユメカの腕を掴んだ。
そのまま力任せに引き、態勢を崩したユメカはキュウゾウの胸の中へと倒れる。


「ーーーー!!!」


心臓が破裂してしまったんじゃないかという程にユメカの胸の鼓動が大きくなった。
息の仕方さえも分からなくなるくらい混乱し、身を硬直させる。
捕まれた腕がとても冷たい。しかしキュウゾウの腕の中は暖かい。


「確かに……名を言った。お前がこうした時だ」


(それって……キュウゾウを温めようとした時ってこと…!?)


「……っ私、キュウゾウのこと……知ってたから…!」



つい、言ってしまった。



「何故」
「違う…世界にいたの。其処では皆のことが、物語になってて……」
「…………」
「何故か急に、こっちの世界に来て」
「…………」
「信じられないかもしれないけど……本当だよ」


もう、言い逃れできない。


「会った時と変わらぬ姿をしていたのも、それ故か」


キュウゾウの言葉にあることを思い出す。
それは、キュウゾウの傷に巻いたハンカチを返された時に、問われた言葉。


“何故……変わらぬ”


ユメカが頷く。


「…………」


キュウゾウが腕を解放した。
ユメカは恐る恐る身を離し、キュウゾウを見る。


「気持ち悪いって思う…?」


自分はキュウゾウに拒絶されてしまうのだろうか。
返ってくる答えを待つ時間は、やけに長く感じた。




「思わぬ」




ユメカの涙腺が緩む、心底嬉しかった。
不安だった気持ちがすっと解け、涙へ変わる。


――本当の自分が、キュウゾウに受け入れられた。


キュウゾウの手が再びユメカへと伸びた。
頬を伝う雫に指先を這わせ、拭う。
無言の動作にユメカは戸惑い、涙は止まった。
赤い瞳、真っ赤な瞳。そこに映る自分の姿。



――ああ、もう無理だ。



貴方が好きです。

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