samurai7 | ナノ
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それ以降言葉を交わすことは無く、無言の時が過ぎていく。
さすがに寒さが身に染みてきて、ユメカはきゅっと体を縮めていた。
それでもここに居たい。その想いで目を瞑って耐える。


風の音ばかりを聞いていた耳に、足音が聞こえてきた。
顔を上げれば、シチロージが目の前に立っていた。
あっと声を出そうとした時には、温かい手に頬を挟みこまれる。


「随分と冷え切っているではないか」
「…………」


シチロージは触れていた手を放し、キュウゾウを見た。


「見張り役を変わろう」
「無用だ」
「しかし、ユメカはキュウゾウ殿が動かなければずっと此処にいる気だ」


そんなこと言ってない、と思ってユメカは抗議したくなるが、
確かにキュウゾウが此処にいるのだったら自分はここに居たいと考える。
どうやらシチロージにはお見通しのようだった。


「風邪を引かせては困る。キュウゾウ殿」


キュウゾウは背中越しにシチロージに一瞬視線を向けた。
立ち上がり、軽い身のこなしで岩場を降りる。
ユメカを一瞥し、すたすたと先に岩穴へと向かった。


「さあユメカ、行きなさい」
「う……なんか、ごめんなさい」


自分の我が儘を通してしまった感じだ。
ユメカは恥ずかしくなって俯く。シチロージは微笑んだ。


「キュウゾウ殿ばかりに大変な役は押し付けられんよ」


ユメカを促すようにぽんと背中を押したシチロージ。
ユメカはお礼を言い、岩穴へと向かった。
中に入ればやはり吹きさらしの外とは違い暖かい。
先に刀を抱えて座り、目を閉じていたキュウゾウの傍に
ユメカは控えめに腰を下ろした。


目の前には疲れた様子で寝入っているキララの姿。
火がぱちぱちと音を立てる。


とても此処が暖かく感じるのは、火があるからだけでは無いだろう。
キュウゾウと一緒にいるときにずっと感じてきていた緊張が、徐々に無くなってきているようだった。
嬉しくて、幸せで、落ち着く。


冷え切った手を火の近くへ差し出し、暖をとる。
正面のキュウゾウをじっと見る機会は少ないからと思い、またキュウゾウに視線を投げれば
キュウゾウが先にユメカを見ていた。
火が映りこんだ、真っ赤な瞳。
吸い込まれそうなほどに綺麗な色。


「…………」


逸らすことが出来ず、初めて見詰め合った。

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