samurai7 | ナノ
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ヒョーゴが舌打ちをすれば、紅蜘蛛型の野伏りが近寄った。


「もうよい」
「なんだと……」
「奴等の力の程は分かった。引くぞ!」


ここに戦を仕掛けた目的は、力量を確かめるため。
目的は済んだ。しかし始末がまだだ。
ヒョーゴは仲間の裏切りに尾を引かれながらも、その場に背を向けようとした。
その視界に、キュウゾウへと走り寄る女の姿。


(あいつは……)


ユメカはどうするか。
しかし考えるまでも無い。最初から敵側ではないか。
少しの間で仲間意識に囚われていた自分にまた舌打ちし、ヒョーゴはその場を後にした。


「ユメカ!ご無事で」


駆け寄ったユメカに、ヘイハチが声を上げた。皆も走り寄る。
しかしカンベエは、キュウゾウの背を射るように見つめた。


「もはや、仲間のもとには帰れまい」


キュウゾウは何も答えず歩き出す。
思わずユメカが一歩前に踏み出そうとした時。


「来るな」


キュウゾウに拒絶の言葉を向けられた。
ここまで来るのに決して向けられなかった言葉。
ユメカは動けなくなる。
するとゴロベエがキュウゾウの前へと立ちはだかった。
一緒に来て欲しい。此処にいるサムライの思いは同じだ。
しかしキュウゾウは殺気を向ける。


「行かせてやれ」


カンベエの言葉に、ゴロベエは身を引き
キュウゾウは誰に視線を合わすことなく離れていった。
















岩場の陰に、一行が集まる。
カンベエは銃によって出来た傷をシチロージに手当てしてもらった。
「痛みますか」というシチロージの気遣いに「かすり傷だ」と答えるカンベエ。
しかし巻いてもらった布に血が濃く滲む様子からは、とてもかすり傷とは思えない。


「ユメカ、よく戻ってきた」
「うん」


キュウゾウに拒絶されたことが心に残り、ユメカは膝を抱えて小さく返事をした。
カンベエはそのまま、農民達へと視線を向ける。


「お前達、怪我は無いか」


リキチが笑顔で頷く。


「へぇ、水分り様の目さ、狂いはねがったぁ。
おサムライ様達は本当におつえぇ。
これで村から野伏せりは居ねくなるだぁ」
「飛び道具には勝てん」
「だども……」
「先の大戦でも、あれのせいで随分と仲間が死んだ」


手当ての道具を片付けたシチロージが
さて、と顔を上げる。


「マロの手先が野伏せりまで使うとは、さすがアキンド。
おおよそ買えないものはありませんな」
「あぁ、だから奴ら、ここで待ち伏せしてたんだなぁ」


リキチが納得したように相槌を打つ。
しかし腑に落ちない点はいくつもあり、ヘイハチは刀の手入れをしながら口を開いた。


「式杜人の地上への出口は無数にあるのに、何故此処だと分かったんですかね」


身を小さくしていた蒼い身なりの女、ホノカが視線をそむける。
その様子に、ヘイハチはいつもの優しい笑顔に影を落とした。
ユメカはヘイハチの豹変の様子に、はっと顔を上げる。


「教えてもらおうか、ホノカ殿」


驚きの表情でリキチとホノカがカンベエの方を向いた。
リキチが「何を言ってるんだ」と、野伏せりに村を荒らされた哀れな身の上のホノカを庇う。
しかし、ここまでサムライ達を案内をしたホノカ。
一切の迷いを持たなかった様子に、カンベエは確信した。


「責めることはありません」


突然聞きなれない声に一同がそちらを見る。
すると全身を隠す風貌の集団が現れた。
サムライ達がユメカと別れて行動していた時に世話になった、式杜人と呼ばれる者たちだ。


「確かに彼女は野伏せりの“草”ですが、
あなた達をはめようとした訳ではないんですよ」


式杜人の説明で、ホノカが野伏せりと通じていたということが分かった。
しかしそれは、式杜人が造る蓄電筒を狙ってのもの。
村へ向かうサムライのことを野伏せりに伝えたのは運が悪かったと言える。


ホノカは式杜人が何もかもを知っている状況に、汗を流しながらも驚きの声を上げる。


「知っていたんですか……!」
「甘く見ない方が良いですよ、泳がせて敵を暴き出すのは基本です」


ホノカは俯き、目を伏せた。
妹を野伏せりに捕らえられ、危険な目に合わせないために従うしかなかった身。
しかし、自分がしでかしたことの愚かさをホノカは頭で充分理解していた。
これでカンナ村が危険に晒されるだろう。


リキチがホノカを責める。
しかし、ゴロベエがホノカを庇った。


「生きていくためだ。
おぬしの女房も、だからこそ野伏せりのもとへ行ったのではないのか。
おぬしに生きてもらうために……」


リキチが拳を握り、身を震わせる。
リキチの女房は、野伏せりに捕らえられていた。
だからこそ、人一倍野伏せりを憎んでいた。

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