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「3th.secret 交わる双眼の罪」


夜闇から見せた男は静かに怒気を含んだ声でまずその中心で震えるウミを見つめた。

「…クッ、気付くのがおせぇんだよ、阿呆」

「おい、どうすんだよ!」

「どうするって…決まってんだろ!こいつを殺れば俺達は一生楽できる!」

「だからどうしたクソ虫、俺を殺れるもんならやってみろ。」

「な…か、身体が動かない…だと!?」

「その前に無理だろ、
非力でしかねぇ女を複数で押さえつけて無理矢理…俺はそんな奴が最高にぶっ殺してぇくらいに許せねぇんだよ、阿呆が!」

しかし、その男の双眼から醸し出される覇気に誰もが身動きすら出来ない、生かされているだけ有り難いと痛いくらいに思い知らされた。

「今日は特別だ、女を巻き込んで刀を振り回すのは俺の性に合わん。
ましてや俺は弱い物イジメはしねぇ主義なんだよ、だから見逃してやる、テメェ等クソ虫が何人束になって掛かってこようが結果は同じだ。」

「ひっ、ひいぃ…!!!」

怒気を含んだ男の姿勢に迸る殺意が滲み出ておりこれには大の男達も竦み上がり、我先にと転がる様に逃げていったのだった。

「チッ、ったく…所詮はクソ虫か……」
「…ッ…!」
「あ?」

1人、その場に取り残されたウミは未だ震える身体を押さえることが出来なかった。
そして確かにヴァンパイアだと言っていた歪みのアルベルという名には不似合いなほど端麗な容姿の蒼白の肌を持つ吸血鬼と呼ぶには相応しい容姿に体躯をしたヴァンパイアと2人きり、

紅い双眼に金と黒の例えるならまるでプリンの様なグラデーションを描く独特の背中まで長い美しい髪は後ろでふたつに結われている。
傲慢で荒々しい口調、足が竦みうずくまる衣服がボロボロで痛々しい自分とは違う小さなウミの姿にハンター達からも畏れられる歪みのアルベルと呼ばれたヴァンパイアは静かにウミに詰め寄った。

「いつまでも此処に居られたら迷惑だ、これに懲りたら女が夜道1人で歩いてンじゃねぇよ、阿呆。さっさと帰…」

しかし、アルベルが吐き捨てた言葉を耳にする前にウミは複数の男に取り囲まれたショックと助け…(か?)闇から姿を現した男がまさかのヴァンパイアだと知り一度に起きた出来事を整理できず頭を抱え、

「オイ…っ!」
「っ…やぁっ…こわ…いっ…!!」
「騒ぐんじゃねぇ、阿呆………………ッ!?」

不意に、上目遣いで涙を浮かべるウミとかちりと双眼が交わりアルベルは刺激され目を見開き硬直した。


俺は?何を…?

目の前で小さく震えて、今にも消えてしまいそうな少女の縋る様な眼差しに刹那、呼吸すら忘れる程に。

「…」

名も知らぬ少女の痛々しい姿に激しく動揺する心。
優しくなんて自分には無縁だがばたばたと暴れる小さなウミをそのまま静かに宥めれば崩れ落ちたウミを左手の鉤爪で傷つけてしまわぬ様に右手で庇う様に易々と細いしなやかな筋肉の付いた腕で受け止めた。

「ったく、阿呆が。
…気ぃ失いやがって、」

ぐったりと己の腕の中で意識を無くして眠る少女、暫く目が覚めないのは明らかだ。
まさかこのままこの森に置き去りにするなんて…
今までもこれからも女と関わるなんて御免だ、しかし…そう言っていられない状況が目の前で起こってしまったのだ。

「…甘い、」

本能に誘われる様に不意に殴られたウミの口の端を伝う血に口唇を寄せればそれは先程のハンター共の血とは違う噎せ返る程の甘い血の味がした。

このままにはして置けない。
通りかかったのが偶然だとしても彼女は汚されずに済んだ。
アレは強姦紛いの行為に怯えて気を失うのは無理もない、引き裂かれた衣服、むき出しの鎖骨から首筋へと…
吸血鬼の本能的に血を求め双牙を突き立てたい衝動に駆られるがぐっと耐えて。

女を置き去りになど…そんな無責任な事が出来るか、アルベルは静かに悪態付くと軽々とその肩に名も知らぬウミを担ぎ上げ、森を後にしたのだった。







交わった瞬間に感じた衝動の名は、知らぬ儘でイイ、

俺には、





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