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「36th.secret 引き裂かれた愛の代償」


あれから、どれ位の時間が流れたのだろう…

「う………」

傷だらけの身を起こし目を覚ますも繰り返す容赦のない尋問に心身共に疲れ切っていた。
首にぶら下がる鎖、両手首を固定され身体中鞭でズタズタになます切りにされていた。


自分がどんな姿をしているのか、それすらも分からない…月の光さえ届かない漆黒の世界でアルベルは静かに目を覚ました。
ガントレットに隠した罪を背負っていくと決めた罪の象徴を静かに見つめる。

「ウミ…」

虚ろ気に呟いたのは紛れもなく愛しい少女の名前…。

逢いたい、たった一目だけでもいい、ウミに逢いたい。

小さな身体を強く激しく熱く抱き締めて抱き締めて…いっそ叶わない恋ならば壊してしまえば良い。

離れて気付いた思い。
駄目だ…こんな仕打ちを受けても結局芽吹いた愛は思いを募らせ蕾を膨らませるだけで…………

焦がれた少女が…泣いている。
彼女の笑顔を思い出したいのに……


きっと暗闇に閉ざされた世界に投獄されたアルベルは今も、それは酷い仕打ちを受けているに違いない…彼を救いたい。
それだけがショックで今にも気を失ってしまいそうなウミの思考を繋ぎ止めてくれていた。

「ウミ…折り入って話がしたいとは何だ。」
「お願いします…っ!どんな事でもする、だから…アルベルを助けてあげてください!彼は何も悪くないんです…私、私が……っ!」

必死に震える頭を下げ、泣きたくて、恐くてたまらないのにそれをぐっと堪えウミはヴォックスと2人きりと言う軟禁状態の中で何度も縋る様に懇願していた。

「…」
「お願い…!」
「どんな事も、と言ったな?
あの男のためなら死ぬのも…厭わないと?」

「っ…!」

涙を瞳に一杯ためた少女に見上げられヴォックスはまた満足げにほくそ笑む。
その表情をしたその時の血が何よりも美味いと知らずウミはアルベルだけを、深く思っていた。

しかし、この男は何処までも残酷な仕打ちをウミに与えたがる、屈辱に落ちたところでみすみすその鮮血を啜り取るつもりだ。

「あの男がお前の本当の父親を殺したとしてもか…?」
「っ…え…?」

紡がれたのは、あまりにも残酷な現実…

「あの男はお前の大事な両親を奪った憎き男だぞ?それでも助けるか、」
「おとう…さん……」

彼女を打ち崩すには
十分すぎた、宣告だった。
確かな証拠もない癖に…
逃れる宛のない言葉を言いはなったヴォックスは静かにウミの頬を撫で首筋を露わにする、

若く瑞々しい張りのある無垢な素肌に舌なめずりをし、肉親を奪われ義父すら殺され長年連れ添った執事も…

その中唯一自分を照らしてくれた彼が…何とかして助けようと足掻いていた彼が………まさか?

「っ…嘘、そんなのっ…!嘘に…決まってるわ…っ!!」
「嘘…か、未だ信じるか?あの男は平気で人を殺す様な極悪非道の吸血鬼だぞ?」

信じたい、信じさせて…
ウミは顔を伏せそっと長い睫毛を伏せた。

そして、それでもウミは初めて感じていたのは確かな彼を好きな本当の気持ちだけだった。

、信じてる。
未だ…夢を見ていたいの、貴方を好きな自分は貴方を疑わないわ、

「聞かない…っ
アルベルは絶対に…そんな事をしない!」
「証拠も無いというのにあいつを信じると?
よくも言えるな、ウミ、あの男は確かに「違う!アルベルは極悪非道なんかじゃない、私を助けてくれた。
ずっとたった1人で苦しんでいる、本当は誰よりも優しい人だから…私は!信じない…アルベルはむやみやたらに人を殺したりなんかしない!!」

彼はあのハンター達から自分を助けてくれた。
虐殺なんて人間の都合で彼を襲い返り討ちにあった者達の勝手な意見だ。
その事実に嘘偽りはなくて、だからこそこの全てを歪める男の悪魔の囁きにもウミは決して怯みはしなかった。
例え彼が肉親を殺した吸血鬼だとしても、それでも…ウミは信じることが出来なかった。
実際に彼が父親を殺し鮮血を啜ったのも見てもいない・証拠すらないのに信じろと、ましてや憎しみの象徴の言葉を信じろと言う方が無理だった。

明らかに自分と彼の絆を引き裂こうと企む男を信じることが出来ないとその言葉にウミは直ぐ様反発した。

「じゃあ…貴方は何なの?
アルベルさんを逆恨みしているから、そうして私を惑わそうとしているとしか思えない…
私が狙いなら…最初から私を狙いなさいよ…!!」
「…フンー…これだからお嬢様は…


アルベルを救いたいと?」

待ち受けている結末が例え

黒だとしても。

「何度も…っ、言わせないで…!アルベルを開放して!あのままじゃ死んでしまう…―!」
「悔いは、無いようだな。
良いだろう、ならば取引をしよう。


お前にしか出来ない、」

「何をすればいいの。」

ニタリとほくそ笑みヴォックスはウミにそっと囁いた。


―…「…アルベルに今すぐ別れを告げろ、お前が身代わりだ。


「…え…」





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