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「37th.secret 緋想、悪魔の手招き」


「私には力が必要だ、…全てを支配する力を手にするには無垢で瑞々しい若い娘の血が必要なのだよ、」
「…私の血が、犠牲になればアルベルは助かるのね…」
「何度も言わせるな」


―…アルベル、

火炙りにされる事よりも貴方に会えなくなる事の方が一番の恐怖で、

どうしてかな。
どうしても……信じられなかった。
貴方がお父さんを殺すも殺さないも正直、関係ないくらいに頭の中は貴方の事でいっぱいで。
義父もラルヴも、全てを無くしても失いたくなかったのは紛れもなく貴方だったんだ―…。

だから、だから

「私の血を差し出す代わりにアルベルさんを助けて…っ!お願いします!」

悲痛な面持ちで叫んだウミにヴォックスはニマリと笑みを浮かべた。
初めから仕組まれていたとは…気付かない、愚かで哀れな少女を吸血鬼は欲しがった。

「…交渉成立だな!アルベルを自由の身にしてやる、ふはははは!そして私だけにその血を捧ぐ花嫁になれ!」
「っ…あ、あぁ…っ…―!!!」

アルベル、私を…こんな形でしか愛せなかった私を許して…

ウミは絶望に瞳を閉じた。
次に見た世界に映るのは


もう、彼じゃない…






ウミ、
何処へ行けば、どんな選択を選べば
お前と結ばれる?
お前を…失わずに済むんだろうな…

「…アルベル、釈放だ。」
「―…!
ジジイ、」
「もう己の強さに自惚れるでないぞ…。」

そして、永遠に近い沈黙を経て重厚な扉が開かれたのだ。
満身創痍のアルベルは軋む身体を震わせ久方ぶりに見た月夜に紅色の瞳を細めた。
ウミの一途な祈りが通じ重い鎖に繋がれた忌々しき牢獄から開放されたのだった。

彼女の、犠牲の果てに…

そして過ぎったのは今一番逢いたくて仕方のない恋い焦がれたウミの存在。

「―…、ジジイ、ヴォックスは、ウミはどうした!?」
「…ウミは、もう此処には居らんよ。」

鎖を外され漸く許された自由に黒衣を脱ぎ捨て普段の腰巻きを巻いた服装に戻り乱れていた髪を結び直しながら目を見開いた。

「何…!?」

憂いを秘めたウォルターの眼差しにアルベルは冷や水を頭から浴びせられた様な衝撃が駆け抜けた…傷だらけの身体。
餓えた身体が求めるのは…


―…アルベル、

引き離されて気付いたウミの存在だった。

「…!
ジジイ、ウミに何があった!」
「あの少女は本当に純粋な瞳をした心の持ち主じゃ…アルベルを助けるために…」
「…ジジイ!」

そしてウォルターの口から割り開かれたのは胸を揺さぶるあまりにも衝撃的な事実だった。

アルベルの眉間に盛大に皺が寄り顔がますます苦痛に歪む、
恐れていた事態が、起こってしまったと手に取る様に容易く理解しアルベルはただ己の無力を呪い、訳も分からず走り出した。

「小僧!」

クリムゾン・ヘイトを奪い、そしてウミを奪ったあの男の思惑に踊らされる自分が浅ましい。
ウォルターの声に耳を貸さずアルベルは目にも止まらぬ早さで駆け出した。

「ヴォックス…あの野郎ッ!

ブッ殺すだけじゃすまさねぇ…!!!」
「アルベル、止せ!クリムゾンヘイトの無いお前に勝ち目は無い…大人しくワシに任せて「ふざけんじゃねぇ!ウミをヴォックスに奪われたままで要られるかよ…!
俺は…っ…阿呆だ、情けねぇ…守ると言いながらあいつに最後まで守られちまった……欲情すりゃ血が飲みたくてたまらねぇ、呪われているけど、守りたいんだよ!あいつを…愛しちまった!」
「アルベル…待て!その傷は…」

しかし、その先にもうアルベルの姿はない、撃たれた傷口を抑え鞭打ちでボロ切れと化した体を引きずり闇夜に聳える彼女の屋敷へ駆け出した後だった。

「…グラオ…
アルベルも漸く、あの力を本当に守るべき大事な者に使う導を見つけたようじゃのう…」

心から愛おしいと願う少女は…ただ1人、今も昔も変わらずに求め続けた存在。

もし2人が運命で結ばれているのなら…
どんなに離れても引き裂かれても、

何度生まれ変わっても…必ず、また巡り会える。
もし巡り会えたら二度と…

その手を何があっても離すな。





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