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「30th.secret たったひとつの願い」


不意に掠めたアルベルの香り、ふわりと緩やかな睡魔がウミを包み眠りへと誘ってゆく。

「うるせぇ、さっさと寝ろ」
「っ…」
「二度と逢えねぇわけじゃねぇ。いちいち俺にまで気遣ってんじゃねぇ阿呆が!…ムカつくんだよ、」

余所余所しい態度が頭に来たのか気付けば最初の時の様にアルベルにあっと言う間に担がれ投げ飛ばされた先、ベッドに身を横たえた状態になって居たのだ。

「…」
「アルベル…」
「やっと慣れたか、どうした、さっさと寝ろ、お前の執事にさっきから感づかれてるんだよ」
「えっ…!?」

アルベルの言葉に忽ち不安に駆られウミは瞳を瞬かせ慌てて目を強く閉じた。

「それに加え最悪だな、アイツがこの屋敷にいるみてぇだな。」
「…!
アルベル!
そうだ…私、…やっぱりあの人もアルベルを狙っているの?」
「!!引っ付くんじゃねぇ!」
「っ…!」
「…、悪ィ、言い過ぎた。」
急にウミに詰め寄られ慌てて怒鳴ればウミはまた瞳にじわじわと涙を浮かべて居る…

「っ…アルベルにもしもの事があったら…」
「それがどうした、それが俺の宿命だ。ンな奴ら、片っ端からぶっ殺せばいいんだ。」
「でも…」
「俺を殺りてぇハンターなんぞ幾らでもいる。お前を襲った奴等もそうだ、」

「……」

其奴等を殺したと知ればウミは俺を鬼だと呼ぶだろうか…アルベルは真っ直ぐに見つめてくるその綺麗な瞳を反らし嘲笑を漏らした。

そして聞こえたヴォックスの単語に再び意識が揺り起こされる…不安に苛まれ反射的に彼に詰め寄ればアルベルは心配するなと言わんばかりに涙を浮かべるウミにそれは余裕たっぷりに笑い、腰に帯びた命と等しく心を蝕むリスクを見事はねのけ手にした古くより伝わる大事な魔剣・クリムゾンヘイトを見せた。

月夜に輝く白刃の光に映るは彼の赤い瞳。
それは忽ち彼女を虜にした。

「何が心配か知らねぇが俺にはコイツ(クリムゾン・ヘイト)がある。それに…俺は強い狩人に狩るか狩られるかのギリギリの一線で殺し合うのが楽しみでたまらねぇんだ、だからお前は余計な心配すんじゃねぇ、ハンターなんぞブッ殺せば何の問題もねぇだろ」
「…アルベル…」

駄目だ、この男は全く分かってくれない。
ウミは"それ"が心配で仕方がないのにと悲しげに小さな肩を震わせて俯くのに不敵な笑みを浮かべるアルベルはウミの心配を何とも思わずにまた静かに彼女をベッドに寝かせて髪を撫でてやった。

さらさらと指先を流れてゆくその心地にまた微睡みながら。
「寝ろ、夜が明ける。」
「…うん、」
「何だ、言いてぇことがあんなら今言え、」

しかし、一対一のフェアな戦いを好む彼は女に口出しされようと根は変わらない。
戦いが全て、今までは強さが全ての孤独と満たされない欲望を埋めてくれた。

しかし、戦いが全て、数多の死線をくぐり抜けてきた彼に不意に髪を撫でられ不敵で野性的に微笑まれればうまく丸め込まれた様な気がして仕方なしにまた瞳を閉じるしかない。
暗示をかけられたかの様にどんどん意識が墜ちてゆく意識のままにウミはゆっくり瞳を閉じて変わらぬ願いを口にした。





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