「…仕方ない、 今夜は…もう寝なさい。おやすみ、ウミ。」 こんな時は病弱で良かったと心底そう思った。 横になって居れば具合が悪いと誰もが自分を1人にしてくれた。 1人、束縛された屋敷の中の大事な1人の時間。 しかしこの真っ白な部屋ですら牢屋に置かれたような気がして。 どうか、気付かないで… 今だけはこの闇に私達を隠して。 ウミの小さな祈りが星に通じたのか月も星も雲に隠れ2人を隠しそして、義父が扉を閉めたのを最後にウミは慌てて鍵を気付かれぬ様に閉めた。 「アルベル…っ」 「…来い、」 そして向かうまでもなくアルベルは音もなく力強い抱擁で彼女を己に引き寄せた。サラリと互いの髪が絡み合いそして見つめ合う瞳と瞳、アルベルの骨ばった指先が荒々しさを残し心地良く髪を梳く、しかしアルベルの身体はどんなに触れても冷たくて、心から好いている彼に強く抱き締められたウミの身体だけが熱くなるばかりだった。 「…っ…」 「毎晩待ってたのか…」 無言で頷けば今にも口唇が触れてしまいそうな距離で扉に寄りかかり近すぎた彼の精悍な顔に高鳴る胸を抑えきれない、ベッドに胡座をかいて漆黒のマントに包まれたアルベルの燃える様な紅い存在を見つめて居た。 立てば2人の背丈は明らかだ。 近付いたアルベルにまた壁に詰め寄ったまま右腕にすっぽり抱き締められ慣れない行為に戸惑いながらウミもおずおずとアルベルのガッチリした腰回りに腕を回した。 抱き合えば感じる幸せな記憶、言葉はもう要らない、 愛し始めた大切な女を抱くなど自分には無縁の行為だと信じていた…しかし、アルベルは目の前で自分の片腕に収まるほどしかないウミを抱いている矛盾。 しかし、悪くない。ウミなら、ウミだけなら躊躇わない自分が居る。 許されざる逢瀬だとしても今だけは… そして、ウミの為なら迷わずこの身を罪に汚しても良い。 左腕の甲冑に躊躇わずに指を絡めてきた存在が何よりも愛しくて、そして離れた距離だけ思い知らされたのだった。 「私…、 この温もりを知ってます、ずっと昔から…きっと…」 「違いねぇ、…俺もだ、悪い気はしねぇ。 叶うならお前と一生こうして居てぇぐらいだ。」 しかし、それは許されはしない。誰にも言えない秘密の逢瀬。輝く月と星が許されざる2人の抱擁を爛々と照らしていた。 違和感を感じる、 以前、こうして目の前の少女を見つめていた記憶が確かに胸に宿っている気がして。 そして、ウミの淡い瞳も自分を本当に心からの優しさで愛しく包んでくれていた。 確信に変われば2人は言葉もなく初めから恋人同士だったかの様に… 2人は近付けば近付く程に高鳴る鼓動、どうしようもない愛しさだけが2人の思いを引きつけ二度とは途切れない様に堅く結ばれた。 「お前の身体は温かいな、」 「…うん、アルベルは…冷たい、ね。」 余所余所しかったウミの態度も睨み飛ばせばぐっと縮まった。 血の通わぬアルベルの身体を抱き締めてもウミの体温はどんどん熱を帯びてゆくばかりなのに血を喰らう呪われた魔の一族の彼は変わらない。 頬を伝いウミの緩やかな髪を触れる指先が冷たくて、それが何よりも心地よかった。 「っ…」 「眠いか、そりゃそうだろうな。さっさと寝ろ、朝が辛くなるだけだ」 「平気…、」 「チッ、面倒だな、阿呆が。」 歳が離れている所為か、ただでさえ人一倍神経質なウミが歳の離れたアルベルに遠慮をしていることは明らかだ。 後込みしながらも人間の三大欲のひとつの睡眠を欲する体とまだ一緒にいたいと願う心は相対する。 だけどこのまま寝てしまいたくない、朝になれば貴方とは、また離れ離れだから……。 そうなる位なら、寝不足の方がずっとマシだ。 prev |next [読んだよ!|back to top] |