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「31th.secret モスキートの果て」


「また来る、」
「ううん、いい。」
「あ?」
「だって…アルベルにもしものことがあったら…私、」
「チッ、ありもしねぇ不安を抱いてんじゃねぇ、阿呆が。
毎日は来ねえぞ、んな時は夢で我慢しろ。」
「え…」

ガシャン、重圧な甲冑に隠された左腕が揺れる。
"夢で"など意味深な言葉を残した彼に疑問符を浮かべ首を傾げるもアルベルはもう歩き出していた…本当は顔を見て言いたい、しかし、過去もひっくるめて恋愛経験、ましてや異性との関わりなど皆無なためにどうも慣れないのだ。
れ隠しだと言わんばかりの態度で。
朝焼けがちらつく世界、凍えそうな星の夜。
指をぱちんと鳴らし施錠したテラスの扉を開けまた指を鳴らし扉を閉めカーテンも閉めた先で少し低く掠れたアルベルのぶっきらぼうながらもそれでも様子を気遣う声が響いた。

「あの…っ…どうして、夢を…?」
「……………………………………俺がそうしてんだよ…、」

「…!!」
「毎晩、同じ奴が夢に出てくるわけねぇだろ。」

吐き捨てられたセリフ、それはつまり…
目を見開き胸を激しく締め付けられウミはただ、切なくて…此の感情に付く名前にどうしようもなく泣きたくなった。

彼も自分と同じ気持ちで居てくれた。
夢で会えたのは、会いに来てくれたのは…!!
それだけで心は満たされてウミは枕に顔を埋めて静かに歓喜に涙したのだった。

好きすぎて、愛しすぎて涙が溢れる様なこんな気持ちに浸れる幸せ。
見返りなんて要らない、貴方の幸せと無事を何よりも願っている。
貴方が傍にいる、それだけでどんな孤独も辛さも乗り切る事がきっと、そう出来る自分が居るから。



その日の夢はとても幸せだった。
さらさらと髪を梳く手つきに微睡んで、見つめる視線の先には貴方。重ねた口唇は夢の中なのに何よりも冷たくて。

それでも逢えない日々を夢でつなぎ止めながら2人は思いを通わせ激しい秘密の恋に堕ちていった。


その傍らで、二人の願いは虚しく月夜が引き裂いてゆく、
甘露に操られた理性が紐解く先は、果てしなき深淵。

今だけは現実に別れを、
甘い月夜の幻想に酔いしれて



「ヴォックス様…何を!?」

明かりの消えた客間は血色の絨毯と重なり不気味な雰囲気をより一層醸し出している。
床に転がったテーブルに散らばる割れたワイングラスの破片、その先でラルヴは緊迫した状況に佇んでいた。

左側のホルターにストックした吸血鬼に対して瀕死の重傷を与える効果を発揮する拳銃を向けその指先がトリガーを今にも引く勢いだ。

そしてその先で対峙する燕尾服の男。

「御主人様!
……屋敷にあいつ以外の醜い気配がすると思えば……ヴォックス…お前、吸血鬼の血を飲んだな?そうなんだなてめぇ!!!」

「!
フフフフフッ…御名答!しかし私の正体を知ったからにはもう生かしてはおけん!
私には"血"が必要なのだよ汚れを知らない、若くて瑞々しい血が、な。」

「そう、か。
メイド達を全員失血死で殺したのも…ヴォックス!てめぇはもうハンターでも吸血鬼でもない、ただの化け物だ…吸血鬼の血に呑み込まれた!」

しかし、トリガーを引こうにも屋敷の主を盾にヴォックスは鋭い槍を手に優美にほくそ笑んでいる所為でこれから何かを始めようとしているヴォックスを仕留めることが出来ずラルヴはますます怒りに穏やかな表情を歪めた。

なんとしたことか、やはり此の男は死にかけたにも関わらず生きていたのだ、吸血鬼の血肉を逆に体内に取り込んだことによって生きながらえ、そして復讐のためだけに…。


「…大事な主を失いたくば私を侮辱したあの男を捕まえろ………アルベル・ノックスをな」
「嫌だね、」

憎い男だが…馬車に退かれそうになったウミの命を助けた恩人であり彼女の…

いつか吸血鬼の本能が姿を見せる瞬間までは彼女の大事な存在だと認めよう。
だから守らねばならない、
二人の未来を引き裂く未来なんて…此の男には渡さない。

「ならばこいつの命はないぞ!!」
「…御主人様!!」

しまったとトリガーを引くのと槍が胸元を深く抉るのはほぼ同時、一瞬の刹那―…

―…ガウンッ!!ガウンッ!!!






許されない恋だとしても、
凍てついた美しい心を持つ吸血鬼、そして優しい心を持つ温かな少女に…

終演は足音もなく、歩みを寄せて。
紅蓮の花弁に身を横たえる。

望まれた意味、確立した存在意義

全て、恋し君が為に





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