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「27th.secret Song for…」


あれから10年の歳月を経て、広く逞しく成長したその背中が迷いに蝕まれ小さく見えた。
求めればきっと応えてくれる少女が本当は恋い焦がれて仕方のない癖に虚勢を張り頑なに拒むのはきっと…。

不器用な男だ、しかし父親とよく似ている。
彼と全く同じ選択を強いられ戸惑っている。

父親を亡くし、本当はずっと怖かったに違いない。
傷ついた心はどんどんどんどん、もう戻れぬ場所まで堕ちてしまった。
戦う事でしか満たされなくて、戦いに身を投じればその一時はあの過去を忘れてしまえた。
あの男によく似た面影を持つ青年へ成長を遂げた彼に不似合いな"歪み"と畏怖を持ち恐れられる彼を闇を見守り救ってやりたかった。
そして芽生えた希望が現れた、もしかしたら…あの少女なら―…彼を救えるかもしれない。
強さだけでは、満たされない優しさ温かな世界を持ち合わせた少女との再会が彼に確かな変化を齎し始めている。

「ウミと言ったか、優しい少女だ。身体が弱い事を苦ともせずに誰にでも分け隔て無く接しておる。小僧にもな、」
「…っ…」
「確かにワシ達は夜の一族、小僧の言うとおり人間は吸血鬼と比べれば儚い存在…思いを通わせてはならないのは分かり切ったこと、じゃがな…小僧、お主の父親はそんな物で諦めてしまう様な男ではなかったのう、
それに、ワシ等にとって血を吸うのは人間が家畜を食うのと全く変わらないと思わんか?」

確かにウォルターの言う通りだ、そして吸血鬼は長い時を生きる果てに人間には無い凍てついた身体には綺麗な心が眠っているのだ…

「…それは…!」
「小僧、後は自分がウミに確かめるしか一生分からぬ儘じゃ、ウミの気持ちを信じることは出来ぬのか?毎晩毎晩お前を思って歌を唄っておる彼女を、」
「っ…煩えっ!俺は…優しさを求めてなんぞいねぇんだよ!そんな物が何の役に立つ!俺が求めちゃならねぇんだよ!」
「逃げるな小僧!小僧は…もう十分苦しんだ、そろそろその左腕を癒しても良いじゃろう、小僧にも誰にでも幸せになる権利は平等にある物じゃ、ウミが好きなのじゃろう?このまま曖昧なままで居たらウミはヴォックスと無理矢理政略結婚させられてしまうぞ…」

戸惑うアルベルに意味深に言い残し、ウォルターに言われるが儘に餓えた身体を抱きアルベルは苦痛に呻いていた中で宿敵であるヴォックスの名を口にした瞬間、戸惑っていたアルベルは一瞬にして顔を上げた。

「っ…アイツが…!?」

そしてあの男がウミの屋敷で暫し情報を集めるために滞在していると知ればその表情には憎悪が浮かびだしている。

「奴にウミを奪われてもいいのか?奴は…ウミを無理矢理モノにするつもりだ。
奴は危険じゃ、お主が一番分かって居るはずじゃろう…」
「……」

ウミ、
許されるのなら…その名をもう一度。

「何を迷う小僧、気になるのなら直接確かめてみればいいじゃろうが。
ついてこい、今お前が欲しい答えは此処に引きこもって居っても見つからん。
全く…本当に不器用な奴だ、」

ヴォックスへの募る怒りをくすぶらせアルベルは漆黒の闇の中をウォルターに続いて歩き出した。
眩い笑顔と星々が煌めく場所へ。

ウォルターが繋いでくれた2人の思いが例え許されざる物だとしても…。
もう2人を隔てる壁は無いに等しい。

「っ…アルベル…さん、っ」
「………フン、…クソ虫」

例えどんな結末が待っていようとも…この気持ちに嘘を付けなかった……。

そして、待ち受けていたのは月夜が許す焦がれた少女との秘密の再会だった。
夜空を見上げ星々が照らすバルコニーで、ウミは袋を握りしめ、歌を歌い彼を待ち続けてくれていた事実は隠すまでもない、真っ直ぐに向けられた無垢な瞳は確かに唯一無二の彼へと注がれていた…





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