求め続けた。 かつて無くした全てを、与えてくれた、たった1人の存在に。 「…アルベルさん…どうしたんですか…!?」 「…っ…見るな…!」 「きゃっ…!!いゃ…やめて…っ!!!」 「もっとだ…お前の血を、俺に寄越せ…」 「…や…やめて…っ…あ、あぁぁっ!!」 今夜も冷える。 闇だけが支配する静かな空を見上げれば澄んだ空気に均一な輝きを放つ星々の世界が広がっていた。 「…ウミ、…」 首筋に舌を這わせ一気に牙で皮膚を貫けば噎せ返る様な血の香りと色香に誘われて汚れを知らないその甘露を骨の髄々とまで貪り尽くす夢を繰り返した。 その果てに例えこの身を焼かれたとしても。 左腕が疼いて仕方がない、 所詮、彼女との逢瀬が叶ったとして、夜は逢い引き、朝が来れば離れ離れだと言うのに。 「…っ…ハァ、ハァ………夢、か…」 玉粒の様な寝汗を浮かべアルベルは慌てて身を起こした。 口唇が震えている、彼女の血で染まった様な気がして拭うもそれは夢の中の出来事。 しかし、いつか彼女の血に欲情し彼女の血を貪り喰らうことが現実になってしまうのではと考えると恐ろしくてたまらなかった。 逢えるものなら―…逢いたい。 どんなに理性を張りつめても、心は欲しいとそう叫んでいる。 しかし、自分には許されはしないと理解している。 静寂を引き裂き募る慕情、血に餓えた気持ちは情けなく震えていた。 どうした事か、らしくもない。強さのみを求めて戦い強さを誇示する、それが己のアイデンティティだった。 しかし今ではろくに狩りにも行かず口にする彼女の名が胸に沁みて安堵する情けない待たせる男。 きっと…ウミも待ちくたびれて、否最初から自分など待っていない、そう思えばいつかはこの見えない胸を渦巻く感情にも別れを告げることが出来ると信じて疑わない。 俺なんぞ忘れて目の前の幸せを、他の男との幸せを手にすりゃ良い。 後3年も過ぎれば…可憐で扇情な笑みに残酷な優しさ、泣き顔も愛らしくもあり意志の強い瞳。気丈な振る舞いにどの男も振り向く極上の女にでもなる。 そうすりゃ俺なんぞ一時の気の迷いだと笑い飛ばせる日がいつか必ず来る。 離れて気付かされたこの感情を、お前に伝える気なんぞ端っからねぇ。 戦いしか術を持たない自分に果てに強さを得ても、それはその場だけでしか満足しねぇ、いつも心の何処かでは捨て切れねぇ甘さがあった。 初めて触れた気がしねぇお前を見つけたあの夜からウミを片時で見つめて、愛らしい笑み、無防備な真っ白な項に何度生唾を飲んだか数え切れない。 迷わず口にしたら最後、 死ぬまで離してやれなくなる、それまで…髄々と彼女の血を貪り尽くす、卑しい生き物だ。 prev |next [読んだよ!|back to top] |