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「24th.secret 2人を繋ぐ鍵」


「残念だがワシはお主の逢いたがっている人物ではないようだ。」
「…っ、…そう、ですか…そう、ですよね、私、」
「いい匂いがするのう」
「えっ…!」

不意に掴まれた手首に目を配れば其処にはうっすらと赤い筋が浮かび血が出ていた。

「あ…す、すみません…」
「ほっほっほっ、安心するがいい、ワシはちょうど狩りを終えたばかりで空腹ではない。
しかし、お主の血はちと気になるのう、腹を空かせた他の吸血鬼共に気付かれては心配だ。

さぁ、今夜も寒い。気を付けて中に入るがいい、さもなければ小僧が…いや、何でもない。」
「…?」

"小僧"その言葉が誰を意味するかなど知らずに幾千年の長い時を経て生きる年を重ねた吸血鬼のウォルターに促されウミは逢いたかった存在に逢えなかった大きな落胆に華奢な身体を寒さに震わせながら部屋に入った。

「あの…、貴方は…どうして…」
「お主は吸血鬼もダンピールも人間も皆平しく接する優しい心の持ち主じゃ。
お主の血からはそう感じられるのう。」

言い掛けた言葉を遮り年を重ねた吸血鬼の力か、ウォルターはウミの流れる血を見つめながらウミの疑問に丁寧に答えをくれた。

「…では、ワシはそろそろ城に「あ、あのっ…!」
「何じゃ?」

その穏やかな瞳…
吸血鬼独特の毒を纏う威圧的な雰囲気を醸し出しながらもウォルターの優しい声にウミはそっとあの袋を手渡すと願いを聞き入れてはくれないか、藁にも縋る思いでウォルターに頼み込んだ。

「あの…その…っ…アルベルと言う名の吸血鬼さんをご存じでしょうか…?」
顔見知りなのならこれを渡してもらうことは出来ないでしょうか…言い掛けた言葉に戸惑いがちに問うウミの瞳が不安そうに揺れている。
「アルベル、じゃと?」

ウミが口にした言葉はウォルターが思った通りだった。
それは聞き慣れた名前。アルベルを庇い亡くなったアルベルの父親、グラオの代わりに昔から変わらず成長を見守ってきた大事な存在だった。
そして彼に渡して欲しいと頼むのはアルベルよりも年が幾分離れている小さな少女だった。

元から人と関わりを持たず一族を束ねる身でありながら孤立し離れて生活しているアルベルがいつの間にかしかも、あんなに馬鹿にして見下していた女とどんなきっかけかはわからないが交流を持っていたとは…

しかも、きっとウミの星に輝く瞳が彼に逢いたいと訴えて居るからに2人は少しずつその距離を縮めつつあるのだろう。

2人の間にそびえ立つ壁がどんなに高くても。
2人がお互いを思い合っていることなどその瞳を、血の香りを見れば一目瞭然だった。

「直接渡さなくていいのかのう…?」
「でもー…私達は、」

そう、あの森に行くには膨大なリスクを背負わなければならない。
ましてや、吸血鬼狩人を束ねる悪魔の様なヴォックス公爵がこの屋敷に滞在している中人目を潜って森に出るなどアルベルの身を考えればますます出来なくなってしまったのだ。
こんな事なら早く会いに行けば良かった…
しかし、後悔しても虚しさを噛みしめるだけだった。
どうして後悔と言うものは先に立ってはくれないのだろう…

逢いたくても逢えないもどかしさと、逢えたと思えば立ち塞がる現実は冷たくて…じわりと盛り上がり潤んだ大きな瞳から溢れた涙を静かに拭った瞬間、ウォルターは優しく彼女を宥めて

「あいつなら、いつも近くにいるぞ、のう、アルベルよ…」
「…!!」

そして、思い掛けない展開がウミを待っていたのだ。
意味深に紡がれたウォルターの言葉に目を見開けば…

「…」

其処にいたのは…黒衣に身を包んだ長身の艶やかな漆黒から金へ色が変わる髪をした鋭い赤い瞳、無骨な左手の火傷を覆い隠すガントレット。
待ち焦がれた彼の姿だった。





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