愛し方さえも分からずに | ナノ
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「23th.secret 愛の歌、届けに」


愛の歌を、貴方へ…
星空の下で。
彼女は静かに唇から紡ぐ甘い旋律を奏でていた。

それを密やかに1匹の蝙蝠が聴いていたとは知らずに離れて気付いた思い。
焦がれた彼へ逢いたい慕情を募らせていた。

そしてその日の夜、今日の余韻に浸りながら変わらずに来る筈のない彼を待ち続けるウミの手には一生懸命、彼女なりに作った手作りのクッキーを詰めた袋が握られていた。

ラッピングのリボンは彼の鋭い何もかもを燃やすかの様な瞳をイメージした紅蓮。
そして袋は彼の髪をイメージしたサラサラと夜闇の風に流れる漆黒に線引く金色。
強く胸に抱き来る筈のない彼を健気に待ち続けていた。

収穫祭も終わり日に日に容赦なく寒さを増す夜空の下で、薄手のワンピースをふわりと着たウミは自分の寒さよりもこの寒さにきっと寒がり屋な彼の身を案じ待ち続けていた。

「アルベル、さん…」

指先が冷たくて、剥がれてしまいそう…確立した愛しき存在の名を無意識に紡ぐ、理解してはいる、彼が来る筈など絶対に無い、きっと…

しかし、離れて気付かされた確かな思いはもう止められない。

出会って、恋に落ちた。
まるで引力にも似た満ち引きにより。
彼に逢いたい、力強い腕でもう離れられないくらいに抱き締められたい。
そんな願望が星を散りばめた海の様に広がる。
気付けば自分の気持ちにもう嘘が付けなくなって居た。

「ウミお嬢様…何処に居られますの!!
ヴオックス公爵と今から晩餐会です…!!」

「っ…!」

しかし、現実は待ってはくれない、ウミの頑なに願う一途な気持ちを踏みにじってゆく。
不意に広い屋敷内に反響するメイドの声にウミはびくりと華奢な肩を震わせ胸に置いた拳を握りしめた。
ヴォックスが自分と食事をしたいと誘いに出たのだ…!
あの男と向かい合って食事なんて…嫌だ!
反射的に、心と身体が拒絶反応を起こしウミはとっさにベランダに身を潜めて隠れて息を殺してみる。

束の間の時間だが、それでもその時間が何よりの安心だった。


「アルベルさん…」

どうして、今まで会いに来てくれなかったの?
どうして、助けてくれたの?
どうして、どうして…

募る思いが張り裂けそうで焦がれて狂いそうで…。
ふと、空を見上げれば一匹の梟が悠揚と夜闇を羽ばたいていた。

「…っ…アルベルさん…!」

藁にも縋る思いで必死に梟に手を伸ばすも届く訳なんてない。
しかし、その梟は静かにこちらを見ると…

「ほうほう、お主が…小僧の…」
「…っ…えっ…!?」

次に見ればいつの間にか…梟は霧の様に姿を消し自分の隣には小柄だが何処か風格を醸し出した老人が居たのだ。
無理もない、小さな声で悲鳴を上げ驚きに飛び上がるウミを落ち着かせてその男は厳しそうな表情から楽しそうに白髭に覆われた顔をくしゃりと崩して笑みを浮かべた。





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