音が止む…そしてー…ゆっくり、ゆっくりと瞳を開く。 確かめたい、確かめたくない、そんな…切ないのに温かい気持ちにさせた。 此処で死ねたら、貴方の隣で、寄り添って死ねるなら、それで幸せだったの。 「え…? アッ、ア、ルベル、さん…っ…!?」 「…チッ、」 お母さん、お母さん、と泣き叫ぶ小さな子供に過去の私を重ねて居た。 大好きだった、私の本当の両親。 優しくて、大好きで、いつもその手のひらの温もりに甘えていた。 でも、そんな日々は長くは続かなかった。 身売りに合い、このまま慰み者として生きていく運命の今はひとりぼっちの私。 確かに義父さんは優しい、本当の私のお父さんの様に接してくれた。 でも、いつかは私が世継ぎを産むとして決められた知らない誰かと結婚して、私は所詮慰み者と変わらない。 突っ込んできた馬車に反射的に、私はラルヴの制止の言葉に耳を貸さぬままとっさにその子の前に飛び込んだ…。 いつか死ぬなら今死んだって同じ、どうせ死ぬなら胸を張って死のう。 自ら命を絶つ勇気なんてないくせにね… アルベルさんにもきっともう逢うことはない、 ラルヴが言う通り…アルベルさんは吸血鬼、私は人間。 この気持ちに付ける名前を確かめる事は許されない。 吸血鬼と関わりを持ったら火炙りの刑か永久に牢閉。 そう願う気持ちとは裏腹に私たちはまた悲愴な運命のツタに導かれて 結局、思い知らされるだけ。 許されなくても良い、火炙りにされても良い、アルベルさんに、逢いたい…って。 アルベルさんに逢えない方が今の私にとって生殺しで何よりの拷問だった。 飛び込んでから後悔してももう馬は私の目前。 派手に踵を鳴らし暴れ馬は馬車を引きずりこっちに向かって走ってくる。 少しでも…自由な未来がある子供を抱きしめ馬を見つめた。 その黒馬の瞳はまるで… 今にも肉食獣に食べられそうだと、怯えて見えないその存在から逃げようと足掻いている…みたいに。 あぁ…私は死ぬんだ。 アルベルさんに…もう一度逢いたかったよ…なんて願っても。 叶わない… 諦めかけたその瞬間、 目の前に現れたのは… 荒々しい息遣い、感じた温もり。 突然、有り得ない事態が…金と漆黒の海が私の視界に広がった。 急に止まるはずのない暴れ出した馬が顔を鷲掴みにされ無理矢理止められてぶるぶると脅えている。 確かに感じた彼の香りー全てを射抜き魅了する赤い赤い、深紅の瞳。 そして、私の目の前にいたのは…目を見開いて私はただ驚きに硬直する。 私のそれは驚いた様な間抜けな声が周囲に反響すれば顔を隠したい衝動に駆られる。 「ウミ!!ど、どうしてこんなところに!!」 「おっ、お義父さん!?」 そして馬車から降りてきた意外な人物に私はただ目を見開く事しかできなかった。 アルベルさんを見つめる、 そして…私も見たことのないある1人の背の高い白金の髭を生やした美しい精悍な顔をした中年の男性が馬車からその姿を現した瞬間、アルベルさんの表情が憎悪がはっきりと見えた怒りに震える険しい表情へと変化したのを…。 確かに見た気がした。 「アイツ…! ヴォックス、生きていやがったのか………」 「アルベル、さん…?」 「…" "…」 でも、それきり私の視界に彼の姿はなくて… 確かにアルベルさんは私に言葉を残し、気が付けば煙の様に忽然と其処から再び姿を消してしまっていた。 助けてくれた…身を挺して、守ってくれた彼を… そんな…せっかく、アルベルさんに逢えたのに… そして落胆する私に、私が知らない間に煙の様に忽ち蝙蝠に姿を変え飛び回るアルベルさんに更なる追い打ちが待っていたなんて知らない… もしも出会いが意味を持つのなら私達はどうして、どうして貴方に出会ってしまったの?なんてありきたりなフレーズ。 私には一生無縁だと思っていた、 prev |next [読んだよ!|back to top] |