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「15th.secret Dearest-HEROIN-」


「きゃっ…!」
「お嬢様…大丈夫ですか!」
「いたた…だ、大丈夫…」
「早く冷やせ!」

足の肉刺は確かに完治した筈なのに…
それでも、あれ以来やはりラルヴは執拗に私の傍に付きっ切りで片時も離れない…
まるで私を吸血鬼の元へは絶対に行かせはしない。そう言わんばかりの態度で。
私を監視し続けている。

いい加減にしろと思い切り怒鳴ってやりたいのだが爽やかな笑顔でにこにこと自分に優しく接してくれる彼を怒鳴るなんて…良心が痛む。

「熱っ…!」
「ほらほら、焦らなくていいんだ。
よく冷ましてからですよ。」
「うん、」

だから、彼から会いに来てくれたら…
そんな淡い期待を抱いてしまう自分。
分かっている。そんな筈なんてない、彼とはもう2週間以上も離れ離れの状態なのだ。
彼は自分などただの非力な人間だとしか思っていない、それに彼は強大な力を持つ最強無比の妖艶な吸血鬼。
絶対に越えてはならない壁がある。
立ち塞がる思い…逢ったって何もならない、だからこの気持ちは届かない。
胸がまたチクリと痛んだ。

「あ…!お嬢様、」

おいしそうに焼き上がったあつあつのクッキーにうっかり触れて火傷した箇所を冷やしながらまた俯く。
すると不意に戸棚を漁っていたラルヴがしまったとでも言わんばかりの表情を浮かべて私の元につかつかと靴を鳴らし歩み寄ってきた。

「どうしたの、ラルヴ?」
「いや、ラッピング用のリボンをすっかり買い忘れたなぁと思いまして。
買い出しに今から町に行くんですが…たまには、どうですか?」
「え…い、いいの?私、だって外出はお義父さんからは」
「ただし、条件がある。」

急な外出許可に純粋に喜びながらも不意に、真っ直ぐ自分を見つめるラルヴを見つめた。
どうして急に外に出よう、だなんて…

「え…?」

何か悪戯を思いついた子供の様な普段とのギャップを感じさせるあどけない笑みを浮かべて、ラルヴは優しく私の手を取った。

「俺の傍から離れない。
それが条件。それをクリアしたらあの森ですよね、連れて行きます。」

そして彼が口にしたのは…
この時、どうして断らなかったのだろう。
過去と未来の私は大粒の涙を浮かべただ叫び続ける。
今の私への警告、隅で弱く震える私に絡み付く蔦。
今の私には届かなかった。

貴方を失う、未来なんて知らなかった。


「ラルヴ…!!
はい、って!で、でも、っ…ラルヴは平気なの?アルベルさんには…」
「俺は負けました。負けた奴には手を出さないものなんです、逆の意味にもとればあいつも俺を格下と見ている、嫌な性格だ…あいつは他人を見下すことしか出来ない男なんだよ。
俺たちは大丈夫だ、ただし…吸血鬼には絶対に血を見せない様に。特にあの男…かなり過激ですから、」

ラルヴの言葉が、私にはさっぱり理解できなかった。
だって、他人を見下す眼差しや言葉からは意志が全く感じられず、まるで戯れ言の様に。

アルベルさんは確かに誰よりも強さを、強者から奪う勝利を求めている。
でも、それとは反対にアルベルさんはそうする事でしか…強さを誇示することでしか満たされない何かがあった。

赤い瞳はいつも助けを呼んでいた。
泣き叫びたい心を決意に覆い隠して一生懸命隠していた左腕を抱えて、苦しい・痛い・悲しい、鬼、歪みと呼ばれる彼からは確かな人の優しさを感じたの。


気付きながら、どうして。
私たちはすれ違ってしまったのかな…、アルベル。
今なら何度でも言える、
今でも叫び続けている…

貴方に逢いたい…
私が人間だから、私が弱いから、貴方を…





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