SHORT | ナノ



「男対決」
SHORTSTORY

ファンダリアを目指し旅を続けるカイル達一行。ラグナ遺跡の巨大レンズから現れた不思議な力を持つ少女に怪しげな仮面で素顔を隠したフラレマン曰くブ男、そして、浜辺で倒れていた海から来た少女に23歳、あっさり騎士団を辞めたフラレマン。

襲い来るモンスターと戦いながら白雲の尾根と呼ばれるフィツガルドの霧で視界を覆われた山道を進む中、慣れない霧の夜はあっと言う間に白く暮れなずみ寒さからか日も暮れてきたところで野営を取ることになったのだった。

薪を燃べ海の持っていたZippoで火を起こす。焚き火から囂々と燃え上がる炎、まるでキャンプみたいだと手を取り姉弟みたいに喜びはしゃぐ海とカイル。

「ふぅ〜お腹空いたぁ!ねぇロニ早く早く!!」
「ふぅ〜はいはい、ったく、」
しかし、厳しい戦いで長身を生かし皆の盾を買って出る男ロニ・デュナミス、一応パーティの年長者でもあり料理は出来るしビジュアルもそこそこだが何故かモテないフラレマン。そんなロニも戦いで疲弊した体を料理で酷使してまた次の戦いに挑むのも疲れるだろう。海は心配そうにロニに歩み寄ると服の裾をくいくいと引っ張った。

「あの…ロニ…」
「おぉ!海、どうした?」
「料理、大丈夫?戦いで疲れてるんじゃない?私、代わる?」
「ん?何だよ!俺なら平気だって、それより海も慣れねぇモンスターとの戦いでくたくたなんじゃねぇのか?顔色も良くねぇし…」
「えっ!うぅん、そんなこと無いよ…」

カイルの催促に早速今夜の食事を作ることにしたロニだが、そんな彼を海だけが不安を隠しきれない真っ直ぐな瞳で見つめていた。
いつも兄貴らしく明るく振る舞うロニだが海は彼も疲れていることくらい理解していて。普段からおっとりとした彼女からの意外な鋭い指摘を受け稲妻の様な衝撃が走る、思わず言葉を忘れた唖然とした。確かに内心疲弊した体を思い切り休ませたい衝動に駆られていたが年長者のプライドがそれを許さない。我慢を重ねそれが蓄積していたが海の言葉にロニは嬉しそうにニカッと白い歯を見せると優しく海の頭を撫でた瞬間ー。

「海に触るな!」
「げふっ!!」
「きゃあっ、ジューダス!」

何処からともなく颯爽と姿を現したジューダスがロニの背中にハイキックを喰らわせたのだ。

「お前な〜!いきなり何しやがるんだ!!」
「海に触るからだ、」
「頭撫でるぐらいいいじゃねぇか!」
「冗談じゃない、海が汚れる」
「もぅっ、いい加減にしなさいよ!!いちいち喧嘩しないの…そんなくだらないことで!」

普段優しい海だからこそ憤怒を露わにした表情は何よりも恐ろしく映え2人は睨み合っていた瞳を反らして海に謝罪する姿はあまりにも滑稽だった。

「すまない」
「悪い、海、許してくれ!」

ついにいがみ合いを始めた2人の間に散る火花、ジューダスを確かに海は愛しているが仲間であるロニも恋人とは違う大事な存在だ。悲痛な声を発したのはあっと言う間だった。そしてジューダスは一つの提案を騒ぎに集まってきた仲間たちみんなに与えた。

「…平等にじゃんけんで決めるぞ」

いつもクールで冷徹なジューダスの口から飛び出したのは予想外の単語だった、じゃんけんの単語に吹き出したロニをにらみつけながらもジューダスの提案に異を唱えるものはいない。当番じゃんけんで決めると言う提案はとても良い決定案だ。カイルが元気よく声を発し音頭をとると皆も拳を出した。

「今日の夕飯!じゃーん!けーん!ぽーん!」

未だ結成して浅い仲間たちの絆はこの先深まることになる。勝負は一発で決まった。

「よっしゃあ!」

拳を握りしめて天に突き上げる疲れ気味の最年長であるロニ。

「ふん、」

相変わらず余裕なジューダス。その澄ました仮面の表情が崩れることはない。

「やった!!」

喜ぶカイルにリアラも花の様な愛らしい笑顔で顔に影が出来るほど長い睫毛を瞬かせて笑った。

「ふふっ!よかったわねカイル、わたしもあまり料理は出来ないから…」
「リアラじゃないってことは…」
「じゃあ、今夜の当番は…」

そして皆が握りしめた拳の最中1人チョキを出したのは…

「あっ…。」
「決まりだな、」

今夜の当番は平等なじゃんけんにより海に決まったのだった…そして、男達のプライドをかけた戦いがまもなくコングマ…コングを鳴らす事など知りもしない。リリスからどっさり受け取った野菜もあるしもちろん新鮮な水も揃っている。おっとりした外見の割にアウトドアな一面もある海は虫や直射日光は苦手だが大自然の中で囲まれた夜ご飯、嬉しそうにワンピースの袖を捲り淡く綻んだ。

「そう言や、海って料理作れるのか?」


海の楽しそうな鼻歌が聞こえる、食事当番をじゃんけんで平等に決めたはずだったと言うのにいざ水を汲みに行けばジューダスが魔物に襲われたらひとたまりもないと水を汲み火を起こそうとすれば火傷するからとリアラのフレイムドライブが火を吹き包丁でジャガイモの皮を剥こうとすればロニがやってきて、結局皆海の料理を手伝っているのだから。

困った様に笑顔で海に宥められた一同は焚き火を囲んで家庭的な海の料理を今か今かと心待ちにしていた。彼女が夕飯を作っている間、ロニがジューダスに問いかければジューダスは期待に爛々と輝くロニの瞳を疎ましげに睨みつける。

「何故、それをわざわざ僕に聞く必要がある?」
「海に聞いたらまた誰かさんの蹴りが飛んでくるからな〜」
「貴様…!」
「わあっ!ジューダス駄目だよ!海に嫌われちゃうよ?」

カイルは内心海は良い味方だと、ジューダスを黙らせるには彼女が使えるなと内心一癖上手な彼の突きだした仮面の中から介間見えたクールな表情の内に秘めた紫紺の切れ長な瞳の縫い繕いらしく安易に崩せるのかと好奇心が招き試してみたくなった。

「決まってるじゃん!
だってジューダスと海は一緒に暮らしてたんでしょ?そしたら、ジューダスはいつも海の手料理を食べてたんじゃないの?」

そう言われればそうだったなとジューダスは思い出す。自分を看病してくれた際に差し出したミネストローネスープもそうだった、カレーも苦手な野菜が甘みを引き立たせるだなんて知らなかったしピーマンの苦みが肉の旨味で引き立つことも海が教えてくれたのだ。海は確信があるが料理は上手い。菓子作りはマリアンに及ばなくても料理はなかなか上手かったし盛りつけも目を引いた。しかし、それを興味津々に見つめてくる3人に話せば3人は更に海の手料理に期待する事となる、自分に自信を持てる様な人間ではない、へたに期待されては海は恥ずかしがるだろうからジューダスは料理の力量を知るのは自分だけで良いと黙りを決め込むとさらりと言葉を濁した。

「…ああ、たまに作ってくれたが、料理は普通に美味かったぞ。」
「くそ…ジューダスの野郎め・・・海の手料理を独り占めしやがって…」
「まぁ、まぁ。今から食べれるからいいじゃない。
あ、料理できたみたいよー!」

しかし口元は完全に弧を描きゆるみっぱなしだ、満足気味に笑むジューダスを横目で睨むロニを睨み返すジューダスの間には更に閃光の様な激しい火花が散っているように見える。

「はぁい、出来ましたよ〜」
「わぁ、おいしそう〜!」

そこに何も知らない海がいい香りを漂わせて料理を運んできた。

「すっげぇ〜!これ全部海が作ったのか?」
「うん。久々に作ったからちょっと奮発しちゃった、だから、たくさん食べて、ねっ」

カイルの笑顔と嬉しそうな声に満面の相変わらず見た人もを包み込む笑みを浮かべて笑う海もロニもつられて笑みを零した。

「当たり前だろ!くぅーっ!どれもこれも上手そうじゃねぇかあ!!海は将来、絶対いいお嫁さんになるぞ!間違いない!」
「お、お嫁さん!?私、が?うぅんっ、そ、そんなことないよ!」

"お嫁さん"
何気なく言ったその一言に海の顔は白雲の尾根の青白い世界と違い、燃える夕日のように赤く染まっていく。今夜のメニューはハンバーグにミネストローネにデザートはプリンというまさに、

「海」

まさに、ジューダスの好きな物ばかり。しかもハンバーグにもミネストローネにも彼の大嫌いな緑と赤の物体は取り除かれていると言う徹底ぶり。そんな海のさりげない計らいと優しさにジューダスは今すぐ抱きしめたい衝動に駆られたが、それを仮面に隠し、料理に手を伸ばして黙々と食べ始める。それに合わせて、皆も料理を食べ、あっと言う間に海の手料理は平らげられた。

「ふぅ〜食った食った!」
「オレ、もう食えないや〜…」

たらふく食べた後は眠くなるのが人間の性質。後片付けをしようと食器をまとめていた海はふと、デザートのとろけるプリンを作りすぎていたことを思い出し、慌ててプリンを持ってきた。

「ねぇ、実はまだ、プリン残っているんだけど誰かおかわりしたい人いる?」

問いかけた海にロニ、ジューダス、カイルが反応し、いち早く反応したのはカイル。

「じゃあ、オレ貰おっかな〜」

そう言って皿に手を伸ばした瞬間、背後から突き刺さる黒いオーラ、鋭い視線に振り向いたカイルの瞳に飛び込んできたのは…

「…カイル…こう言うのは年長者に譲るのが年下ってもんだぜ?なぁ?」
「…やっと秘奥義を取得したが…カイルが相手になってくれるのか。助かるな。」

2人のどす黒いオーラに圧倒され、カイルは冷や汗を流しながらおとなしく皿にのせたプリンを海に返した。

「オ、オレ…やっぱりいいや。2人で食べなよ。ね?」
「「そうか?悪いなカイル。助かるよ。」」

2人の態度に海も思わずたじろぐが2人の視線は最早プリンのみを狙っている。

「(プリンは僕の物だ。ましてや海の手作りをこいつに食わせるわけにはいかない。)」
「(ジューダスに海のプリンは渡さないぞ!絶対に渡さないからな!
ましてやジューダスばかり海を独り占めしやがって…)」

「「(こいつにだけには負けるわけにはいかない…!)ねぇ!」」
そして、日暮れと共に男達の熱い戦いは火蓋を切って落とされた。ついに勃発した戦いに声を張り上げたのはリアラだった。黙ったまま睨み合う2人にリアラが止めにかかるが…

「ちょ、ちょっと!やめなさいよ、2人共!」
「喧しい!「うるさい!」「リアラは黙ってろ!」」

2人のただならぬ威圧感に背後には獣が見えたらしい…顔面蒼白したリアラも完敗しついに涙目で俯いた。海も困った様に俯きじんわり涙を浮かべていた。

「リアラ…、」
「ああ、・・・海…私、どうしたらいいのかしら」

落ち込むリアラに海も頭を抱えて悩みそして行き着く先にたどり着いたそもそもの原因を招いた自分を悔やんだ。

「そもそも私がプリンなんか余計に作るから…どうしよう…」
「ちょ!ちょっと!やめろよ2人共!リアラも海も泣かないで…!
ああ、もう!何で年下のオレがみんなをフォローしなきゃいけないんだよ〜!」

確かにそうだ、みんなカイルをスタンの代わりに守るというそもそもの旅の理由を忘れている。カイルの悲痛な制止もお構いなしのロニとジューダス。
2人の(海の)プリンを巡る戦いはエスカレートしていく…

「腕を出せジューダス!男らしく腕相撲で勝負だ!」
「ほう…それは僕の見かけを判断しての挑戦か?
いいだろう。後悔するなよ。筋肉は見た目だけじゃないんだからな」

腕まくりをしたジューダスの腕は生々しく血管が浮かび上がっており色は白けども間違いなくそれは繊細で男らしい腕をしていた。鋭く瞳がつり上がり肉食獣の様に目つきはプリンしか見ていなかった。2人はがっちりと合わせられた右腕をテーブルにセットすると、無理矢理審判を任せられたカイルのかけ声で腕相撲対決が始まった。

「レディーファイッ!!」
「うおおおおー!」
「僕は過去を断ち切る!」
「…すごい…恐るべし食欲!」
「ううん、これは食欲ではないわ。海が作ったプリンだからあの2人は燃えているのよ…」

2人の腕がジューダス側に倒れかかればロニ側に持って行かれて…しかし、体格から見れば明らかにジューダスが不利。海は心配そうにその光景を見守っているがついに耐えきれなくなり、何を思ったのか急に水辺に放り投げたまま爆睡していたクライスを抜いたかと思えば黒光りの刃がきらりとキャンプファイアーの光に鮮麗に瞬いた。

「やめなさーい!!」

2人の間にいきなり鋭いクライスを突き刺せば2人は慌てて組んでいた腕を離して距離をとった。海の表情は見えないが彼女が黒いものを帯びているのは分かった。二人は唖然としたまま怒鳴り声を発した海にただ開いた口が塞がらない状態だ。

「おい!いつまでもいつまでもこっちが黙ってみてりゃあ男のくせに何たかがプリン1個で喧嘩してんだよ!ガキの喧嘩か?ああ?」
「海・・・よね?」

いつも優しい穏和な海からは信じられないくらいにドスの効いた声に誰もが震え上がった。間違いないが海に見えないくらいにクライスを光らせる海は本当に怖くカイルは失神しそうだ。ロニとジューダスも震え上がりすぐさま土下座した。

「す、すみませんでした…」
「もういい、カイルにあげるから!後かたづけ、よろしくね。」

拗ねるなど可愛らしい比喩では通用しない、スタスタと足早にプリンごと持ち去ってしまった海の後ろ姿を呆然と見つめる男2人。
海に怒鳴られ目が覚め冷静に考えれば…

「馬鹿馬鹿しいよな…。たかがプリンごときで何海を怒らせちまったんだろうな。」
「…ああ、」

せっかくの海の行為を2人のくだらない戦いで台無しにしてしまった2人の真上には星空が輝いていた。

「なぁ、後で謝りに行こうぜ。」

仲良く皿を洗う男が二人。そう言って肩を抱いてきたロニの腕を振り払うとジューダスは鼻で笑い意味深な艶っぽい笑みを乗せた。

「その必要はない。僕がお前の分も一緒に海に謝っておくからな。夜にじっくり、」
「それは、つまり…」
「フッ、どうという事はない」

ジューダスの意味深な妖しい笑みにロニの嫌な妄想はどんどん膨らんでいく…

「この、むっつり仮面ストーカー野郎ー!!」

そんなわけで…海の怒りもむなしく第2roundが始まった。やはり2人は喧嘩する仲だと改めて再確認しながらリアラは海を呼びに駆けだす。再び海の怒鳴り声が飛んだのはカイルがプリンを食べ終えて眠りについた頃の話だったとか。


Fin.
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