「I DON'T WANT TO MISS A THING」
SHORTSTORY
(金蝉と三蔵は原作通り別人物ですがヒロインは前世の記憶が残ってます。)
それではどうぞ。
ズズッ…と皮膚に重く食い込む鉛に目眩がした、焼ける様に熱くてかきむしれば次第に身体がガクガクと震え出す。武者震いと決め込んで笑ったつもりが、顔は引きつけを起こしたみてぇに歪む。
尋常でない痛みよりも身体の震えが止まらなくてこんなに身体が凍えてしまいそうに寒いなんて…
「死に場所くらい用意させてくれや…刺し違えてでも、守りてぇモンが出来ちまった、か」
「…」
記憶が無くてもいい
次にまた会えたら、
この次はきっと―――
下界の桜の下で会おう。
目を閉じてしまいたくない。
眠りにつきたくない。
今更、お前が恋しくてたまらない、今更、伝えたい言葉が溢れてきているのに視界が霞がかってもう息が出来ない、
化粧もガタガタ
服もぼろぼろ
髪もグッチャグッチャだ…
言葉を最期に伝えたいのに、からからにこびりついた血泡が邪魔して声が出ない。
美しく死ねる人間なんてもしかしたら数えるほど居ないのかもしれない。
だけど、最後に伝えたい…んだ。醜悪で無様な最期だとしても。
「っ…こ……ん、……
………、愛………し、」
「……――――――!」
桜が巡り散る季節は早いな。
「………俺が、手を離した………」
もうお前の事なんか忘れたいよ。
最期の最期まで、ずっと知らなかったこの気持ちがー愛、だったなんて。
悠々と身を横たえよう、束の間の別れなら何れまた。
見つけてくれ、
次に会えたらきっとまた歩いていこう。きっとまたなくしたくない、ものがある。
夢の中でお前に会うだけで、なくせない幸せになるんだ。
今度こそ手を掴んでくれ。
「ん、…」
夢を見ていた気がした。桜が散る季節を何度潜り抜けても決して見ることの叶わない桜の花。花を散らす嵐の様に散ってしまう風を感じた、夢の中の自分は、泣いていた。
「三、蔵……?」
長旅で蓄積された疲れを満たす様に隣でグッスリ水死体の様に横たわる男に手を伸ばした。
彼は相変わらず眠り続けている。黙っていたら美人な寝顔を食い入る様に見つめる。
「よかった…夢、だよね。」
本当に化粧映えするんじゃないかってくらいの垂れ目な秀麗っぷりに思わず魅入った。
「きれいな寝顔…寝てれば眠りの森のお姫様みたいなのに、」
さらさらと風に金髪が流れて揺らいだ、金糸の様に細くてしなやかな髪に彼の額の赤いチャクラが輝く。
あの夢が正夢にならなければいいのに。無意識にそう呟いていた。
夢だと分かっているはずの思考それでも胸の中心がずくずくと痛んだ。
「金蝉、……私は。
ちゃんと覚えてるよ、」
切ないほどに自分の弱さに気づいたけれど、言葉にならなかった。
悔しかった、体力もなくて口ばかりで頭も回らない、何もかも、戦う力もなくて、
楢崎さんと天ちゃんと捲ちゃんの導き…犠牲なしにゲートにはたどり着けなかったんだ。
みんな戦って、血塗れになって喰われて斬られて落ちていった、みんな笑って自分達の身体を汚して犠牲にしてでも私たちを守ってくれた。
私を庇った優しさも。
どうしてもこの記憶を消し去ることなんて出来なかったの。
みんなの遺体さえ残されない空が天界の散った桜の様に空っぽの灰となって消えた、あれはただの悪い夢だと言い聞かせたら楽になれるだろうか。
渇望した私の願いはあまりにもありふれていた。
彼を失いたくない。
次こそ、次も分からない行く先で失ってしまった仲間達、また集まった仲間達といつまでも笑っていたい。
天蓬さん・捲簾さん・楢崎さん・金蝉が同一人物なわけじゃないのは理解している、だけど、悟空はあの時の悟空で私はあの時のままの私なんだ。
来るはずのない3人をずっと待っていたの。
みんな死んでしまったなんて信じたくなくて、狂った様に泣きじゃくる私を観世音菩薩さんが優しく宥めてくれた。
悲しみのあまり衰弱した意識を無くし、そして私は記憶を無くす代わりに自分の大切な身体の一部を永遠に無くして、惨めにまたあの世界で生きていた。彼らとの思い出を抱きしめて、
それから、
私は前を見据えたまま彼の隣に横たえると瞳を強く閉じて寝ることに意識を傾けた。
私は今を生きている。
それでも過去を受け入れて私は金蝉の面影に確かに似ているけれど、全然違う、三蔵は三蔵、そのものだ。
のんきにまた眠りに落ちたけれど、まさか彼が実は起きていたの、なんて、知らなかった。
「…………誰が眠り姫だ、……この馬鹿女。」
あの時もあの瞬間も自分の非力さをどれだけ嘆いたとしても今生の願いは叶わなかった。
また、次、それがあるのなら今度こそは。
死ぬほどに退屈な永遠を繰り返し生きていくと思っていた今を打破し待っていたのは生の実感だった。
最期の瞬間まで俺は、その温もりを求めて下界の桜を、お前が話していた"海"を馳せていた。太陽は海に沈むらしい、そんな事さえ俺は知らねぇままだった。
結局俺は最期の最期で閉じゆくゲートの間に挟まって悟空とお前を行かせる事しかできなかった。
こいつに海を奪われるのが心底恨めしい。
だが俺はもう
「………放さねぇよ。
掴んだものはもう何ひとつ。」
こいつの寝顔があまりにも無防備だから、むしろこいつの方が眠り姫なんじゃねぇのか。
なんて言葉をまさか三蔵が吐露するわけもない。
彼なりの愛情表現は海には分からない、彼にしか分からない。
三蔵は無意識に口元が緩やかな弧を描いていた事に気付かない。
また眠るとしよう、掴めなかった彼女の手を今度は掴む様に。
海の小さな頭を、柔らかな髪をくしゃりと一撫でして抱き寄せた。
肉体がなく漂う記憶の中の魂は、未だ鮮明に覚えている。
きっとお互いは最初から欠けた部分が呼び合って引力や運命なんかじゃない、魂という本能で欠けたピースを埋め合い求めるんだろう。
「風邪引くんじゃねぇぞ、海。」
「…ん…」
「チッ…無防備に寝やがって、」
Fin.
一度亡くしたらもう離れられない。魂がきっと求めていた。手のクセでお互いだと、多分気づいていたんだ。
「金蝉、ポーカー教えてあげる。」
「またお前か、」
「##NAME2##さんがここまで連れてきてくれたの。」
「てめぇ…何余計なことしやがる」
「いやいや〜##NAME1##チャンの頼みならオレは命懸けちゃう覚悟なのよ、しっかしお前とはなんか最近知り合った気がしねぇんだよな。
ソウルメイトなんじゃねぇの?」
「ふざけんな、死ぬとき真っ先にお前を記憶から抹消してやる。」
「上等だ!」
「ふん、」
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