SHORT | ナノ
「SWEET SMILE」
SHORTSTORY
×(burial)三蔵
ここに留まること1週間。
眠れぬ夜を数えていた、月の満ち欠けを見上げて。
明くる晩にその女は夜な夜などっからともなくやってきた。
女、
最高僧だろうが俺の人生で永遠に関わることのないと思っていた存在。
真っ白な衣服に細い肢体を覗かせ煙草を片手に紫煙をくゆらせ、小柄で幼い顔立ち、その割に柔らかく大人びた声。
無邪気な顔で綻んだ笑みを浮かべやがる。
胸くそ悪ィ、人の気もしらねぇでヘラヘラしやがって。
「でね、三蔵。煙草はこう吸うんだよ、」
「・・・」
「どうしたの・・・っ?」
「フン、クソアマ。結局てめぇは俺をどうするつもりだ?命か?俺を殺すならさっさと殺せ、」
こいつに習ったわけじゃねぇ。煙草を吸うなんざ考えたこともねェ。
ましてや俺はまだ16になったか?あの寺を出てから聖天経文をがむしゃらに探し回って結局三仏神に頼るしかなかった。
しかし俺より小柄で華奢なコイツがおれより年上なのは無性に腹が立つ。
コイツもそうだ、今まで俺を犯すか殺すかどっちか狙っていた下衆野郎共と何らかわりねぇ。
特に女という生き物が1番醜く信じられねぇんだ。
こんな血腥い俺を最高僧だと祀る寺。
とんだ茶番だ、こんな命。
死んだ眼じゃなにも見つからねぇなら。いっそ、終わればいい。
華奢な手首を掴み引き寄せれば女は真っ赤な顔で俯いた。
大人の余裕をほざいてた奴がどうした。
「どう?」
「は?」
「うぅん〜、怖くて夜も眠れないガキの貴方をどうするつもりもないわ。私みたいな女が貴方をどうかしたらその前に貴方の目に射抜かれちゃいそう、だもの。それに悪い大人のお姉さんに誑かされる様な三蔵サマじゃないでしょう?」
「チッ・・・てめぇ、言ってくれるじゃねぇか。」
大人のお姉さんだぁ??笑わせる、色気もクソもありゃしねェ奴が。力では俺が上だ。自分でも驚くくらい気が高揚してゆくのがわかる。ただならぬ支配欲、
「どうしたの?怪我が痛むの?」
「好きだ、」
「は・・・い?」
驚くほど表情が軟らかくなって、気付けば無意識にそう吐き捨てていた。月夜の晩、まるであの日のこの地に流れ着くまでの悪夢が鮮明に蘇る罪に魘される俺をどっからともなく現れた女が見つめていた。
最初は思わず発砲したが弾は掠りもしねぇ、足を見たが足は透けちゃいねぇ。
だが幽霊紛いの白い女に知らずに安堵感を得ていた。昼間は何処にいるのか遠回しに聞いてみたが噂すら無く、眠れぬ夜に現れてはくだらない話をしてたまには歌を歌い、煙草を寄越してきた。
俺より遙かに小さな女は簡単に捕まえることが出来る。だがつなぎ止めれない何かがある。朝になればこいつは幻みてぇに消えちまう。
「女と言う生き物は信じていないんじゃないの?全く、どんな風の吹き回しかなぁ?」
「俺に聞くな、」
「胸元はだけてる、風邪引くよ?三蔵法師・・・」
無意識か本能がそうさせる。
気づけばこの女の顎を掴むと唇を重ねていた。
「顔が赤いな?どうしたよ、大人だろ」
「・・・っ、大人をからかうんじゃありません!」
照れ隠しに見せた笑顔、気付けばもう一度交わしていた。月の光があんなに重くて双肩に担いだ三蔵という名の重さ(プレッシャー)に押しつぶされていた筈の重圧から吹っ切れた様な気がした。
「フン、歳もいずれすぐ越してやるよ。チビ女。」
「むっ!」
嫌悪と疑心暗鬼の対象だった女と唇を重ねた、だがこいつがただの女じゃねぇのは明らかだった。
漸く落ち着いた気がした。
「・・・どうした?死にたい奴からかかって来い。生きてやるよ、てめぇらの分までな」
生き抜くとそう決意した、あの日。
大僧正・待覚がこの慶雲院を託し死ぬのと共にいつの間にか姿が消えたこいつに次に出会ったのはもう8年後の事だった。
天竺への旅を続けながら24にもなれば煙草の吸い方は随分慣れた。確かに俺は宣言通りにこいつより歳を越えて今こいつは俺の隣にいる。
「ねぇねぇ、三蔵!」
「何だ、」
「呼んでみただけ。」
「・・・死にたいらしいな。クソアマ、」
スパーン!!!
「きゃっ!!」
ハリセンで狙いを定める。
小さな頭を思い切り殴り飛ばすのには最初は手こずったが今はこのザマだ。
小さな悲鳴があがり涙目でこちらを見上げている。
「もぅ、髪がぐしゃぐしゃになっちゃったじゃない…クソ坊主」
「誰がクソ坊主だ!」
よくわからねぇが、コイツの隣は落ち着く。
悪夢が露と消えて、昔からコイツが隣にいた様な気がして、そんな気がしただけだ。
コイツにだけは死んでも二度と離すな、本能がそう叫ぶ様だ。またこいつを無意識に引き寄せた。
Fin.
「ねぇねぇ、金蝉!」
「何だ、」
「えっ、呼んでみただけ。」
「…てめぇ〜俺は暇じゃねぇんだよ!いい加減にしろ!!」
ring
貴方を挟んだまま下界と天上を繋ぐゲートが閉じた瞬間。
風に浚われた貴方の灰をかき集めて咽び泣いた時。
貴方を好きだったと気付くには手遅れだった。
時を経た魂が互いを巡り合わせた。
prev |next
[back to top]