「おまんに、ぷれぜんとじゃ」
4
それから龍馬さんと私は例の神社に来ていた。
「気に入ってくれたら嬉しいんじゃが…」
そう言って懐から取り出されたのは緑色の簪。
「わぁ…!綺麗!」
「ほんまは紅色やらを買うちゃるもんろうが…これを見つけたとき千夏によう似合う思うた」
「この色、好きだよ。ありがとう龍馬さん!」
「ほうか!ほりゃあよかったぜよ」
龍馬さんはお店でしたようにその簪を私の髪に合わせ、優しく微笑んだ。
「この色はの、千歳緑いうんじゃ」
「千歳緑?」
「そう、常緑の松の色。常に、松は青かろう?じゃき、めでたい色や言われちゅう」
「へぇー…」
それから手の平に簪を乗せ、それをじっと見つめる龍馬さん。
「千歳っちゅう名前にゃ意味があっての……。
1000年やぁ長う年月ちゅう意味じゃ。
…おまんの元の世界は10年先か100年…1000年…
きっと長う年月を越えて来たんろうな。
千夏、この時間の差は確かにわしらぁの隔てでもあるのぅ。
けんどもし、おまんが別の時代に生まれて、たいむすりぃぷせんかったら、わしらぁは会えんかったろう。
同じ時代に生まれちょっても会えるか分からん。
へいせいの世に生まれ、文久の世に来てくれたき、わしらぁは出会うて
…恋仲になれたんじゃ」
龍馬さんは簪を間に挟んで私の手を握り締め、そっと私の唇に口づけた。
「おまんは可愛いらしい。
わしはおまんと恋仲になれてほんに嬉しいぜよ。
じゃき、心配しのうてえぇ。
他の女子みたいに飾らのうても十分魅力的じゃ!」
「……!」
「…まぁ、こがなこと言うておきながら、わしはどうしたち千夏に簪を贈りたいき、買うてしもうたがの!」
にしし、と笑う龍馬さんに、私は涙が溢れそうになった。
私が街で綺麗な女の人に負い目を感じていたことに気付いていたんだろう。
それに、時間の差。
どうして私は未来の人で、龍馬さんは過去の人なんだろう。
どうして同じ時代に生まれなかったんだろう。
何度も考えてきたこと。
でも、龍馬さんの言葉で納得ができた。
これを運命っていうのかな…。
「千夏……おまんはほんに可愛らしい。
…もっと、口吸うてもえいが?」
「えぇ!?」
―…そんなの、聞かなくても…。
答えを分かりきっている龍馬さんは私の腰に左手を回し、ぐいっと引き寄せた。
空いている右手は私の顎を掴み、従順な私の顔はその動きに従って上を向いた。
そして生まれた時間の距離を埋めるように、再び私と龍馬さんの唇の距離はゼロになった。
そっと触れるだけだったいつものものとは違い、啄むように、何度も何度も角度を変えて口づけられた。
しばらくそうしていると、突然唇をこじ開けられ、龍馬さんの舌が入りこんできた。
「……っ!?」
初めての感触にびっくりして顔を離そうとするが、離すまいと腰と頭の後ろに回された手によって動きを封じられる。
「…ッ、…りょ…まさ…」
い、息ができない―…っ
「ぷはッ!!」
「……これ以上は、いかんき」
「…はぁ…はぁ…っ」
ようやく龍馬さんの顔が離れ、空気を吸い込むことができた。
必死に呼吸する私から目を逸らす龍馬さんの顔は、私と同じく真っ赤だった。
「すまん、ついやりすぎてしもうた」
「い、いえ…びっくりしましたけど…」
「あまりにも心地えぃき…。
あんまま続けちゅうと、今すぐもっと先に行きとうなるがじゃ」
「さ、先、…」
さすがに意味は分かった。
「千夏、わしはおまんを愛しちゅうき、いつかはそがなことになりたい思うちょる。
…1つの布団で寝る。
千夏、その布団のことを褥、いうがじゃ」
「……あ!」
「そういうことじゃき」
「……」
「まぁ、わしはおまんを大切にしたい。しばらくは我慢するき、安心しちょれ」
そう言って龍馬さんは小指を立て、私の小指に絡めた。
――――………
――……
―…
「ほいで、夫婦円満に繋がるんじゃ」
寺田屋への帰り道。
突然、龍馬さんは話の繋がらないことを言いだした。
「…は?」
「めでたい色じゃ言うたろ?千歳緑。吉じゃ吉。
わしと、千夏の、夫婦円満を祈願する色じゃ!」
祈願しのうても円満じゃがの!
と、いつもの子供っぽい笑顔で笑う龍馬さんに一瞬拍子抜ける。
いつも先のことを考え、そして突然それを話し出す龍馬さん。
でも…
それが龍馬さんらしいや。
くすっと笑みがこぼれた。
【幕】
***
終わりました。
これが私の処女作になります。
うまくまとめられずに4話に…。
次は1話完結の話が書ければいいなと思います。
そして土佐弁について。
この4話目は調べることもせず私の脳だけで書いたので特に間違っていると思います。
後ほど修正するかも。
あと微妙な甘さですみません。
やっぱ私にはむりです!笑
キス、口づけ、口吸い…いろんな言い方がありますが、そのときの状況で選んで書いてるので統一性なし。
とりあえず…
処女作終幕です!
ありがとうございました(^O^)
2011.3.26
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