その日日直だった私は誰もいない教室で日誌を書くことになった。
書き終えた日誌を手に取る。
せっかく部活がないというのに。

そこまで考えて、一つため息を吐く。
…部活がないことを喜ぶなんて最近の私はほんとにどうかしてる。

急ぎ足で職員室に行くとたまたま精市の担任とすれ違う。
精市のクラスの担任は若くて、きれいだ。


「これ、幸村君に渡してくれない?」
「…クラス違うんですけど……」
「えぇ、でも渡すことくらいできるでしょ」


そうゆう問題じゃない、そう言っても先生がわかってくれるはずがない。
若くてきれい、でも贔屓が激しい……とも聞く。

「頼まれてくれるかしら?」

断っても、どうせ行かなきゃいけなくなるんでしょ?

「……わかりました」

精市に渡すというものをもらい、日誌を起き、職員室を出た。
















ガットとボールが当たる音がする。
聞き慣れた音だ。

テニスコートに青い髪を見つけた。
無駄に視力がいいから誰が今コートに入ってる、とかもわかってしまう。
ほら、精市がコートから出てきて彼女がタオルを持ってくのだって見えてしまった。


「……練習中に入るのもだめでしょ………」




人生は不公平だ、とか言うけど不公平すぎる。

なんであの子なんだろう。
どうして私じゃないんだろう。


入るに入れず、帰るに帰れず。
テニスコートの回りをうろうろする。


「あ、精市君のっ!!」


後ろから声をかけられ振り返るとそこにはあの子がいた。
可愛らしい笑顔を振り撒く精市の彼女。
非の打ちどころがない。


「どうかしたんですか?」






「…これ、…幸村君に渡しといてくれないかな?」





幸村君と呼んでしまったら、よりいっそう遠くなった距離。



「…精市君に?わかりました」
私はきっと笑顔を振り撒ける…この子みたいにはなれない。
違いすぎる。

きっと彼女は私が精市に抱いてる気持ちなんて知らない。
いろんな気持ちが混ざりに混ざって、

「じゃあ、よろしくね…」

胸が熱くなったから、
私はその場から逃げた。




これ以上ここにいると彼女になんて言うかわからない。




「おはよう、なまえ。」
小学校低学年の精市はまだ幼くて、私の横にいてくれた。
あ、幼かったからいてくれたのかな?
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