「部活ないんですかっ?」
昼休み、
教室にいた人が一斉にこちらを向き、私は慌てて口元を押さえる。
先輩は笑いながら返答してくれた。
「うん、…なんか不都合だった?」
「あ、…いえ。ありがとうございます」
「じゃあ2年に回しといてね」
「はい」
2年生のまとめ役を頼まれたのは、中学の時の私の実力を知った先輩方が先生に推薦してくれたからだと聞いた。
中学の頃、先輩とダブルスを組むこともあって、先輩と仲が良かったというのもあるかもしれない。
今でも仲良くさせてもらってる。
テニス部に入ったのは、いたって簡単な動機だ。
小さい頃からテニススクールに通ってた精市に付き合ってテニスをすることが多かった。
テニスをするうちにテニスが好きになった。
それだけ。
近くのテニスコートまで行って打ち合いしたりするのが当たり前だった。
精市は上手かったから、私の技術も上がったんだと思う。
それがなかったら今の私はいなかった。
そんな理由で入ったテニス部が辛い。
テニスは好きだ。
いつまでもしていたい。
だけど、テニスコートで毎回目が合いそうになる度泣きそうになる。
目が合いそうになるのは私が精市を目で追ってるから。
ほら、まだ諦め切れてない。
諦めきれてないから隠すんだ。
お母さんはどうせ帰ってもいないだろう。
帰ってからの夜ご飯はどうしよう、と悩みつつも帰りの時間がズレると喜ぶ自分がいた。
どうしてここまで避けるのか自分でもわからなくなってきている。
この気持ちがばれたら……
いや、ばれなくたって同じ状況にしてるのは自分じゃないか。
一つ、ため息を吐くと何かがポロリと抜けた気がした。
「なまえ、次移動だよー?」
「っ、今行くっ!!」
急いで机に戻り教科書を取り出した。
「…もう、取れないよね…。」 私が離した風船は木の枝に引っ掛かりふわふわと浮いている。
小さかった私達に取れるはずもなく、ただ上を向くことしかできなかった。